「王になるべきヒトよ」
馬上を降り、静かに頭を垂れた彼女に若者は痛々しいような面持ちを向けた。
「当に捨ててしまった称号(其れ)だ……」
ほろ苦い思いを抱きながら、それを誤魔化すように馬の手入れを再会させた。きちんとあぶみを外してアラゴルン式の出発の用意を終えると、すっと彼は四人をちらりと見ていた。
美しく誇り高き種族≪エルフ≫に対して、その若者、アラゴルンはいかにも人間らしい、しかし鍛えぬいた身体と勇敢な心を持って、ごく自然に顔を突き合わせている
その姿に気負いも緊張もない。
横に2人の愛馬が寄り添うように
――正に王になる為に生まれてきた人間。
――祝福を受けた、息子。
様様な名と、様様な思想、様様な環境の中で、しかし彼は人間であることだけは捨てられず、今なおその血に苦しんでいた。
「血は捨てきれない――かつて貴方はそういったはずよ」
血――イシドゥルの血が捨てきれない、とかつて言ったはず。
確かにそれは事実なのだが……
「どちらも貴方の血よ、王よ……」
ただ誇り高き人間の王であることも、そして裏切りを働き滅亡に近い恐怖を導き出す人間の王となりえる血であることも,
また事実だものだから……
「そのような呼び名は……」
エルフの姫君のすべきではない――。
そう次げようとして……。
「私の、王――」
それすら、先に発された彼女の涼やかな美しい声に負けてしまった。
「どちらでもよい、傍にいられるのならば――」
彼女は今日も繰り返す。
「アルウェン……」
「私が立てた誓いを思い出して……。貴方は私の王、忘れないで……」
「アルウェン……そうだな、君は……」
諦めたように、気付かされたように、叶わない表情で男が笑う。
今だけは一人、ただの男として、今後はきっとそのうちに、きっと……王として、彼女の為の、王となって……