一関にてローカル線に乗り換え、猊鼻渓(げいびけい)へと向かう。
猊鼻渓は舟下りができるのであるが事前調査によると近くに幽玄洞という鍾乳洞があるらしい。猊鼻渓駅に列車が到着するのは14時半で、舟下りの最終便は16時だから、これは幽玄洞に行くしかない。
ここで岩手尺度を実感することになる。
右も左もわからない私達が遭遇した数少ない岩手県民すべてに「幽玄洞はそこいって曲がってすぐ」的な情報を与えられた。
ちなみに岩手県民に遭遇したのは道のりの最初と中間と後半あたりだが、全員が「すぐ」または「すぐを匂わす」発言をした。
ほう、すぐですか。 歩いて40分近くは岩手ではすぐですか。こりゃ驚いた。
あの人間の少なさからいって、どうやら歩いてどこかへ行こうなんてヤツはこの周辺にいないのだ。すべてが車感覚に違いない。が、人間は車ほど迅速に移動できんのだよ。
ま、そんなこんなはあったが、無事に幽玄洞に着くことができた。アンモナイトなんかも確認できる鍾乳洞は歩いた後の汗ばんだ肌にひんやりと心地よかった。
ちょっと湿ったひんやり感となんだかうねった造形、静かな中の水滴や反響の音・・・そんな非現実な雰囲気が鍾乳洞の好きなところだ。
40分ほどで見学を終え、舟下りするために猊鼻渓駅方面に戻る。時間もぎりぎりだったし、そうでなくても我々はタクシーを呼んでもらった(笑)道筋に見るものでもあれば別なんですがね。
さて次は舟下り。 以前、鬼怒川でやろうと思ったのだが繁盛していて予約無しではできなかったからちょっと楽しみにしていた。
舟は手漕ぎで10名乗りくらい。カップル1組とお兄さん1人、5人のサラリーマン団体と同乗であった。
竿一つで操船する船頭さんは今年で引退するという大ベテランの方で、歌も説明もなめらか。他の人と比べたわけじゃないけど、ちょっと得した気分。
船頭さんによると、最終便は他の舟とすれ違うことがほとんどないため「自分の川」という気分が味わえるそうだ。
実は私は「舟下り=スピード&スリル」と勝手に勘違いしていたのだが、手漕ぎの舟はゆったりのんびりと進むなかなか優雅なものであった。 思っていたのとは全然違ったが、切り立った崖、それを彩るような木々の緑、澄んだ川と涼しい風はとても気持ちよかった。まさに渓谷美。私もHも大満足である。
ちなみに岩の一つに獅子の鼻のように見えるものがあり、それにちなんで「猊鼻渓」というそうだ。
敢えて書かなくてもいいことであるが、この舟下り最中、私が上着を裏返しに着ていたことが発覚。半日以上、裏返しで過ごしていた・・・しかし気づいたからといって逃げ場のない舟の上で、着なおすことなどできるわけもなかった。
猊鼻渓からはバスで一関へ戻った。
「払い下げのようなバスの臭いがする」と、わかったようなわからんような事を言い、Hはバス酔いしていた。 私は熟睡していたため無事だった。
宿泊地は駅前のホテルサンルート一関。 近い。確かに駅前だ。
我々はチェックインを済ませ、夕食のために外出した。 時は19時頃。
19時ですよ、19時。 19時といえばまだ子供がアニメを見ているような時間ではないのか?
なんなんだ、この暗さは!光源がないのか、この町は! 一関ってけっこう有名な土地だよね!?
暗い! 外出すりゃ店があるだろうと思っていた。で、店を選ぼうとしてホテルのすぐ近くの店はスルーしたのだがそれがいけなかった。どこかに店があるのかもしれない。でも見えない。
少ない光源の一つ、酒屋に入り、開いている食事できるところがあるか聞くと「すぐそこ」にあるらしい。
でたよ、岩手尺度。 すぐそこなら灯りくらい見えるべ!(と北海道弁で怒る)
というような若干の苦労をして「すぐそこ」のレストランにたどり着き、念願のずんだ餅がついているセットを注文。飲み物は地ビールをいただいた。
Hは好き嫌いがけっこうある上に酒が飲めないので食事を楽しめたか微妙であるが、そんな私も味はともかく量がぜんぜん足りなかったのでどっこいどっこいだろう。
翌日、猊鼻渓と響きが似ている厳美渓へ行く。
といっても目的は渓谷美ではない。 ずばり「団子」だ。
「郭公屋」という団子屋があり、崖の上の店から川岸までロープ伝いに代金と団子をやりとりするらしい。 これはやってみたい(笑)
バス停で降りてすぐ「郭公屋はどこですか?」と人に尋ねると「すぐそこ」と言われた。
もうウンザリの「すぐそこ」であるが、なんと今度は本当にすぐそこにあった!
しか〜〜し!やっぱりやられる羽目に!
すぐそこの郭公屋は、団子を作って送り出すところだったのだ!! もちろん普通の店としても機能しているので「団子下さい」と言ったら、その場で出されることになる。
違う!私達はロープ伝いに団子を受け取りたいのだ!
かくして、アホ観光客丸出しの私とHは、わざわざ崖下まで降りて今出た店の団子を買うという愚行に出た。(もっとも崖下こそが本来の「厳美渓」だから観光的には正しいといえば正しい)
団体さんが群がる団子受け取り場にまざり、私達はお望み通りロープでやってくる団子とお茶を受け取った。
実は私は甘い物が苦手だというところがこの話の一番愚かなところだろうか・・・