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フクロムシ

Succulina






 カニの腹部の,いわゆる「ふんどし」の所に,何かカニとは異質な,ぶよぶよした感じのものがあれば,きっとそれはフクロムシです.

 これが虫?と思うかもしれません.そもそも「虫」のように見えません.ですから,さて何の仲間でしょう? などと質問しても,正解が返ってくることはまずありません.海綿? イソギンチャク? えーっ,じゃぁひょっとしてホヤ?

ショウジンガニの腹面を見るとフクロムシ(矢印)が付いていた.

 はい,みんな不正解です.正解は甲殻類.つまりフクロムシはエビやカニと同じ仲間なんですね.

 フクロムシは甲殻類ではありますが,もっと細かく言うと,フジツボ,カメノテ,エボシガイなどと同じ蔓脚類(Cirripedia)に属しています.どうして? という疑問に対する1つの答は,「幼生期の形が共通しているから」でしょう.

 フクロムシの卵から孵化した幼生は,ノープリウスといって,ちょっと見た雰囲気は「ダニ」を連想させます.ケンミジンコのノープリウス幼生の写真を「ケンミジンコ」のページに掲載してありますので,参考にしてください.

 フクロムシのノープリウスは発育して,やがてキプリス幼生になります.キプリス幼生はカニに遭遇すると,その体の表面(毛の付け根など)に固着します.そしてカニの体内に自分の細胞を注射します(注).注入されなかった部分(外骨格など)はカニの体表に残っていて,やがて捨てられます.
(注)注入されるのは,じつはバーミゴンと呼ばれる幼虫なのだそうです.キプリスは2回脱皮してバーミゴンという細長い幼虫となる.それがカニの体内にさっと入って行く.だから後に残るのは2回ぶんの脱皮殻ということになります.「フィールドの寄生虫学」(下記)という本に高橋徹さんという人が書いています.話がややこしくなるので,ここでは「細胞の塊り」ということで進めます.

 注入された細胞は増殖してカニの体内で次第に広がっていきます.そして,その一部がやがてカニの「ふんどし」の所から外にはみ出してきます.

 「ふんどし」の内側というのは,正常なメスのカニならばそこに卵塊(たくさんの卵)を付ける場所です.フクロムシに寄生されたカニは卵塊の代わりにフクロムシを付けているわけです.で,このカニは正常通り産卵行動をします.つまり「ふんどし」をパクパクとやって卵を放出する行動ですね.ところがフクロムシのせいで,このカニは自分の卵を作ることができません(寄生去勢といいます).パクパクと産卵行動をやって,放出されるのは自分の卵ではなくて,フクロムシのノープリウス幼生ということになります.

 フクロムシが寄生したカニがメスでなくてオスだったらどうするかって? 答は簡単.フクロムシはカニを「性転換」させるんです.厳密には性転換とまでは言えないかもしれないけど,寄生された雄ガニは,どことなく雌ガニっぽくなります.そして何と雌ガニと同じように産卵行動をやってしまうんですね.

 細胞の集合体としてカニの体内で四方八方に触手を伸ばして増殖し,カニの生殖能力を奪い,性をあやつり,行動まで変化させる.フクロムシ恐るべしです.

 ところでフクロムシにもオスとメスがあります.今まで説明してきたのはメスのフクロムシについてです.じゃあオスのフクロムシはどうするの? いつ受精するの? などのお話は,またもや抱腹絶倒,じゃなくて七転八倒五里霧中でもなくて,いわば魑魅魍魎の跋扈往来する興味津々たる世界のできごとになります.皆さん自分で調べておくれ.とにかく面白いことだけは保証します.

参考書:
ベール,J. G. 著,竹脇潔訳「動物の寄生虫」平凡社,東京,1973.
Zimmer, C. "Parasite Rex", Free Press, New York, 2000.日本語訳も出ているそうです.
長澤和也(編著)「フィールドの寄生虫学」(東海大学出版)

 なおモクズガニのフクロムシを扱ったホームページ
http://homepage2.nifty.com/hukuromushi/hukuromusi_001.htm
はスゴく面白くて参考になります.

 モクズガニのフクロムシは,その名もモクズガニフクロムシ.どうも寄生虫の名前というのは,わかり易いというか,わかり易すぎて拍子抜けするようなものが多い気がします.

ピンノに寄生していたフクロムシ(矢印).浅間さん(高知大臨海センター)から頂いた標本です.

 話のついでに,カクレガニにもフクロムシがつきます.カクレガニ(ピンノ)というのは二枚貝に入っている小さなカニですね.小さくても,あれはメスで,オスはさらにはるかにずっと小さくて貝から貝に自由に動きまわっているらしい.メスは大きくなり過ぎて貝から出られず貝の中で一生を終えます.そのメスのカクレガニにフクロムシがついていることがあります.寄生虫の寄生虫,いわゆるハイパーパラサイティズムです.昆虫の世界ではよくある現象ですが,同じようなドラマが海の中でも繰り広げられているわけです.
 
 
 

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