オナガバチ
Rhyssinae
オナガバチはヒメバチの仲間である.その特徴は一目瞭然,長い産卵管にある.もちろん雄には産卵管がないから,雄だけ見せられても困ってしまうかもしれないが,この際それは無視します.とにかくオナガバチの雌は非常に長い産卵管を持っている.詳しく言うと,雌の尾端近くから髪の毛のような細く長い突起が3本出ている.そのうち1本が産卵管.あとの2本はその「鞘」で,両側から産卵管を挟んで支える機能を果たしているらしい.
オナガバチは産卵のため倒木や立枯れ木に飛来する.彼らがねらっているのは木の中に住んでいる昆虫,つまりカミキリムシの幼虫とかキバチの幼虫である.木の中は見えないはずなのに,木の中のどこにカミキリムシ幼虫がいるか,オナガバチには判るらしい.何とも不思議な能力である.
オオアメイロオナガバチの産卵を見たことがある.それは山の中にある立枯れ木だった.写真を撮らなかったので,真鍋泰彦さんから拝借したシラフオナガヒメバチの産卵中の写真を載せておく.
さて,私の見たオオアメイロオナガバチは空から一直線に降りて来て立枯れ木の幹に静止した.そこから,ほんの数歩歩いてすぐ産卵を始めた.ちょうど逆立ちをするかのように尻を高く持ち上げる.そして産卵管を長い腹部の下面(腹側)にピタリと添わせて定位させる.このとき産卵管の先端部は「鞘」で両側から挟まれ補強されている.産卵管の先端は,肉眼では見えないけれど微小なノコギリ状になっていて,産卵管を長軸方向に動かすことで切り進んで行くことができるらしい.木の中に入って行くのは産卵管だけで,「鞘」は木の外に留まっている.
シラフオナガヒメバチの産卵行動.真鍋泰彦さん撮影.
大変な作業のように思うが,産卵管は意外な早さでスーッと木の中に挿入される.産卵管の先端は木の中でカミキリムシ(またはキバチ)の幼虫を探っているのだろう.しばらく挿入しているが,やがて挿入した時と同じようにスーッと引き抜く.完全に引き抜くとオナガバチの意外な大きさに驚かされる.オオアメイロオナガバチは産卵管も含めると10センチをゆうに越える大きさである.
さて,オナガバチはまた少し木の幹の表面を歩く.そしてすぐ尾を高く持ち上げて,また産卵行動に入る.このようにして次々と産卵して行く.といっても1回の産卵に20分ほどかかるから,この調子でたとえば2時間作業をしても,わずか6個しか卵を産まない勘定になる.
卵が正確にどこに産みつけられるのか私は知らない.たぶんカミキリムシ幼虫の体表面かもしれない.孵化したオナガバチ幼虫は,このカミキリムシ幼虫を食べて成長する.オナガバチではないが,ある寄生蜂に寄生された芋虫は食欲旺盛になって,ひたすら食べて寄生蜂に栄養を供給するマシンになってしまうという.オナガバチに寄生されたカミキリムシ幼虫にも同じことが起こるのかもしれない.最終的にはカミキリムシ幼虫は食い尽くされ,オナガバチ幼虫は蛹となって,そしてあの巨大なオナガバチが出て来るのだろう.
オナガバチに近縁と思われるヒメバチで Pseudorhyssa という種類がある.オナガバチは Rhyssa だから,Pseudorhyssa を直訳して「ニセオナガバチ」と呼ぶことにしよう.ニセオナガバチは,オナガバチと同じように長い産卵管を持っている.ただ産卵管が細くて,自分では木に産卵管を差し込んで産卵することができない.
ではどうするのか? ニセオナガバチは,オナガバチが産卵管を差し込んでできた穴を利用する.その穴に自分の産卵管を差し込む.そして産卵する.ということは必然的にオナガバチが産卵したのと同じカミキリムシ幼虫に産卵することになる.卵から孵化したニセオナガバチの1齢幼虫は,大きなキバを備えている.このキバで先客をまず殺す.そしてまんまと食糧(カミキリムシ幼虫)を1人占めする.
オナガバチの種類については,別のページに書くことにしよう.
=> オナガバチの種類