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創作小説のコーナー

ナンセンスなストーリーやウクレレなどにまつわる感動的な創作小説を投稿します。現在、長編1話(後日続きを連載予定)を掲載中。
(最終更新日:2005.5.1)

霊界小説「ポセイドンの化身」        吉村俊彦


−銀行強盗の一団−

 それは二千一年の四月のことだった。ギリシャのエーゲ海を臨むある港近くには大きなスイス系のマリアージュ銀行のシチリア支店があり、そこは支店開業して三年目に入るレンガ作りの近代的な支店であった。

「おお、この支店の二階からの眺めも快適ですな、ファーラー支店長。海面から魚が飛び出してはねているのが見えそうなくらいだ。」
「そうですね、まるで人魚の戯れのようで心洗われます。この支店がこのような条件の良い物件で建てられたのも大地主のダイン様の援助あってのことです。」
「なぁに、わしの楽しみなどこんなことくらいだ。それにあの世に大金持ってても天国に行けるとも限らんしな。まあ、人間は健康で天寿を全うするのが一番だ。」
「おっしゃる通りで。病気や事故で若くして亡くなることくらい無念なことはないですから。」
「その点、この町は平和そのものだから大丈夫だろう。車だってゆっくり走っていて事故は少ないとも聞いてるし。」

のどかな南風が吹くこの港は、犯罪とは無縁な所と思われていた。そして、観光客が世界中から押し寄せていたので銀行は様々な人種の人間であふれていた。
「ところで君は聞いたことあるか、この間のヨット航海レースの時に転覆したヨットの話を。たしか一週間前のことか。」
そう言うと地主のダインは虚空を見つめた。
「はい、新聞で読みました。急に海の底から大きな男が現れ、船員四人を抱えて港まで引っ張っていったという話ですね。」
「そうだ。記者連中はイルカと間違えただろうとか、溺れて頭がおかしくなったとか言って馬鹿にしていたが、わしはどうも本当の話のように思えてな。」
「私も実はその話に興味ありましてね。」
「ほう、君もか。この地方にはポセイドンという海神の伝説がある。しかも、実在したという古い文献が半年前にヘルメス古代遺跡から発見されたというから、海の中にへら呼吸してる人間でもいるんじゃないかな。」
「ハハハッ、ダイン様も冗談がお好きで。でもそんな人間がいたらいいですね。ギリシャ代表でオリンピックや世界選手権の水泳競技にも出てもらいたいところです。」
「ムフフッ、そうだな。」
二人は、談笑しながら二階から一階のフロアまでの階段を降りた。階段途中には絵画など美術品が飾ってあり、その中には人魚の置物などもあった。シチリアには人魚がいたという伝説も残っている。

 銀行の待合室ロビーに妊婦のジェーン・アーガシュ、二十歳がいた。彼女は日本に留学に行った際、日本の学生と恋に陥り、妊娠してしまったのだが、相手の方は結婚する意思がなく地元の親元に帰ってきた所だった。日本の彼は有名な水泳選手であったため国柄の違うもの同志の結婚はマスコミの格好の餌食となる。彼は、両親に内緒にして結婚をしないかわりに五年間、毎月千二百ドルの慰謝料を送金してくれる約束交わした。お金をいつものように銀行で引き出しに行った日、運悪く彼女の目の前で事件は起きた。彼女が窓口で受付を済まし、お金を受け取った直後、覆面をした銀行強盗の一団、十人数人がやってきた。一人が鞄の中の銃を若い女子行員にのぞかせ小声で言い放った。
「おい、お前、金を用意しろ!!防犯ベルには触るな。」
「はい、少々お待ちください。」
女子行員は慌ててファーラー支店長の方を向いた。かすかに支店長がうなづくのを確認して女子行員は机の上に札束を並べた。
「早くしろ!」
犯人一味はヨットのマークに似た紋章を腕につけて、見るからに変わったゲリラ・グループのテロの身なりだった。待っている客たちは、彼等が泥棒の一団だということに気付きざわめき始めた。そこで背の高い黒い覆面をしたリーダーらしい男が叫ぶ。
「動くな、撃ち殺すぞ。お前ら一列に並べ。」
「ダーン!!」
「キャー!」
彼は、威嚇射撃を天井に向けて打った。
「やめてー、撃たないで!」
「たっ、助けてくれ!」
銀行の中は、一瞬パニックになった。出口近くにいた警備員は命欲しさに外へ一目散に逃げ出す有様。出口近くにいたジェーンは身重で体が動かず、そのままじっとしていた。ファーラー支店長が目を大きくかき開いて震える声で犯人に直訴した。
「金なら出す。だから、お客様には乱暴な真似はよしてくれ。」
「お前がジム・ファーラー支店長か。なるほど、我々が手に入れた資料の顔写真と同じつけ髭みたいなヒゲしてるな、ハッハッハ、まぁ、いい。とにかく、じっとしていれば殺しはしない。お前たちに反省してもらうために俺たちはここに来た。この野郎、金持ちが寄り集まって、自分たちの都合のいいように隠し金の銀行を作りやがって。政府が許しても俺たちは許さねぇ。奥の金庫に一億ドルの大金があるのは知っている。早く出せ。」
隠し金のことはトップシークレットだった。
「なぜ、そのことを。」
ファーラー支店長は驚きを隠せなかった。それもその筈で、犯人のプロの調査班は、盗聴器を支店の外の電話線に仕掛け、ある裏カジノ通いの男性行員の借金に目をつけて金で買収し、一か月以上も前から、この銀行支店の建物の構造など調べ上げていたのだった。
「わかった、金庫を開けさせるから。」
彼等グループの行動は素早かった。十分間も満たない時間で合計一億ドル近いお金と金塊を軽トラックに積み終えたのだ。
「ヤッホー、ちょろいもんだぜ!あばよ!!」
「おい、早く車に乗れ。全部は無理だ。」
「ちぇ、しょうがねぇ。」

車に乗り込んでうまく逃げられるところと思っていた彼等だったが、しかし、彼等の後ろにはたくさんの警察の車と警備会社の連中が取り囲もうとしていた。それは密かに地主のダインが胸のポケットベル一つで呼び出した連中でもあった。
                             
「奴等め、一人残さず逃がさんぞ。」
「ま、まずい、人質を取れ。あの女を連れて行け。急げ、早くしろ。」
「や、やめて!何するの!」
「おとなしくしやがれ。」
ジェーンは本当に運悪く人質として強盗団に車で連れて行かれてしまった。車は、海岸に向かって走ってゆく。すぐに港には高跳び用のクルーザーが止まっていた。それは用意周到の計画だった。やがて強引にジェーンも船に乗らされた。
彼女の出産予定日は来月の五月だったが、精神的ショックのため流産か早産になりそうな予感が彼女の脳裏を走った。急に彼女の手を引っ張る犯人のボスが意外にも親しそうに話しかけてきた。
「おい、俺が誰だか、分かるか、ジェーン。」
男が覆面を脱いだ。
「あっ、マルロー!マルローなのね、どうしてここにいるの。」
「もちろん、強盗団のボスだからね。お腹に赤ん坊がいるのか。結婚したのかい?」
それは、幼ななじみのマルロー・ジャクルスだった。彼がイタリアに行ってマフィアの一団に加わったという噂を聞いたことがあった彼女だが、それが本当だとは到底信じられなかった。実際に彼は強盗を繰り返していたが、そのお金のほとんどを恵まれない人々の前に置いて行くということをしていたので優しいマルローに変わりがなかった。マルローは孤児院で育ち、その孤児院の隣に住んでいたのがジェーンだった。七年ぶりの再会だった。二人は空白の時間を埋めるように語り合った。
「そうか、ジェーンはシングルマザーをするつもりでいたのか。しかし、わからんよな。有名なスポーツ選手か知らないけど、こんな美人の彼女を名誉と地位のために捨てるかな。信じられん世の中だよ。そいつの家、教えてくれたら、根こそぎ盗んで来てやるのに。」
「だめよ、人の物を盗むのは良くないわ。孤児院のテリー兄さんも言ってたでしょ。悪いことすると報いがあるって。テリー兄さんはどうしたの。」
「ああ、兄さんは銀行にお金が借りられなかったために無理して力仕事して、病気で去年亡くなったよ。まじめに生きるやつは馬鹿を見るよ、今の世の中は。」
ジェーンは驚いた。そして、報われない人生というのは空しいものだと、落胆した。
「おい、なんで警察は追って来ないんだ。」
気が付くと警察の船やヘリコプターなどの気配がない。マルローが思い出したように他の仲間に言い放った。
「嵐だ、嵐が来るんだ。奴等はそれで来ないんだ。それにこの船は微妙に航路を外れているじゃないか、何てことだ。」
マルローはコンパスと海図を取り出し、おもむろに遠くを指差し言い放った。
「あれを見ろ!」
「そんな、何にも見えませんぜ、兄貴。」
「うっ、酒の匂い。クアン、お前また、酒飲んでたな。まったく仕様がねえ奴だな。よく見ろ、黒い雲がすごいスピードでこっちにやって来るぞ。」
「本当だ、大きな黒い蛇みたいに雲が渦巻いてる。」
「漁師の言い伝えのリバアィアサン、海の獣というのはあの雲ことではないのか。」
「まさか、あれが、じいちゃんが言ってた海の上のすべてのものを吸い込むという怪物なのか。そして、最後にはポセイドン様の雷の矢がいかなる強固な船をも一瞬に破壊するというが。」
「こわいよ、俺、死にたくないよ。」
ジェーンも知っていた。それは大昔からこの地方での伝説で、ポセイドンの神が、悪いことをした海賊を懲らしめるために嵐を起こして船を沈没させるという話を。そこはデルタ海域と呼ばれていて、中世には海賊船がたくさん沈められた海の上であった。漁師の間でも迷信のようになっていて、磁場の強い所なので迷い込んだら決して陸に戻ることが不可能だった。地元には行方不明者の墓碑がたくさんあったことを彼等は思い出した。計画では、そこの航路は避けるはずだった。マルローはなぜこのようなことになったのか冷静に判断していた。
「クルーザー船の積載可能重量が三トンで、盗んで来たものの重量を加えると武器や人員の重量を合計してかすかに重量オーバーしていたようだ。もしも、欲を出さないで金塊だけ金庫に置いてくれば、そのようなことは起きなかったかもしれん。」
「私たち、皆死ぬわ。」
「おーい、引き返せ!」
しかし、すでに遅かった。一分もしないうちに雷が鳴り響き、風雨と大波が船をひっくり返した。男達の怒号が鳴り響いた。

−奈落の海の底−

マルローは、咄嗟の機転でジェーンの体に浮輪を結んでいた。
「こんな所で死ぬなんて畜生!ウワッ!」
船が転覆した衝撃でマルローは気を失った。他の男達も荒波に吸い込まれていった。
「ここは、どこだ。おい、デルタス、リジェに、レオン、みんな、なんで、そっちに行くんだ。おーい、返事をしろ。」
マルローは死の世界の入口にいた。自分の仲間が返事をせず通りすぎた時、ジェーンの姿がないのに気付いた。やがて、急にあたりが大きく光り、杖をもったおよそ体長十メートルはある巨人が現れた。それはポセイドンの海神だった。マルローは腰を抜かして動けなくなった。
「マルロー、よく聞け。お前のこれまでしたことは、人間の悪い部分のみを見て、他の人間を見下しただけにすぎない。人間とはもっと崇高なものだ。お前は本来ならこのまま冥界の世界に行き、何百年も反省の日々を送らねばならぬが、今ひとつ大事な試練を与える。ジェーンのお腹の中にはわしの分身が宿っておる。この後、すぐに誕生せし時には、この三年間、漂流先のロドス島にて一緒に生活せよ。よいか、心して修行に励むがよい。」
「あっ、はい、海の神様、仰せの通りに。子供の名前は、なんとつけましょうか。」
「わが名、ポセイドンにちなんで、ポセと名付けるがよい。わが分身に教養と常識をきちんと身に付けさせ、この堕落した世に送り出すのだ。」
「はい、わかりました。この命をかけてその子をお育てします。ただ、なんで三年間なんでしょう。」
「ポセは、三年で大人になるということだ。」
「そんなことって、あるんですか。人間が大人になるには、少なくとも十八年かかりますが。」
「マルローよ、世の中にはいろんな人間がいる。かつては、チベットのような高い山岳地帯に三メートルを越す人間がたくさんおったし、この辺の海には人魚もかつては多くいた。お前はこれから普通の人間の見方で世の中を見ないことだ。それに島には、優れた知性をもつ人魚がおるので、そのものによく世話になるとよい。」
「へへい、わ、わかりました。あのー、その方は美人の人魚さんでしょうか?」
「コラッ、調子に乗りおってからにお仕置だ、コラッ!!」
「痛たた!」
実際にマルローに誰かが彼の頬を何度もたたく感触が伝わってきた。ジェーンの声もしてくる。
「ちょっと、マルロー起きて!」
「だから、お願いです、殴らないで・・・」
「何、ねぼけてんのよ、目を覚ましてマルロー!!」
「ああっ、なんだここは海のど真ん中じゃないか。」
マルローは気が付くと船に備えていた緊急用の浮輪をにぎっていた。
「そうよ、まったく海で溺れそうになってたというのに呑気にへんな夢でも見てたの?」
「いや、夢じゃなかったけど・・・夢だったのかな。ところで、あれ?なんだ??」
マルローがあたりを良く見ると鮫の大群が押し寄せてくる様子が見える。
「おい、鮫がくるぞ、食われちまうぞ。逃げろ!!」
「違うわよ、あれは私たち二人を助けてくれたイルカと人魚の方達よ。大丈夫安心して。」「そうか、何だか訳がわからなくなった。」
マルローはまた別の夢を見ているかの錯覚に陥った。
「それより、赤ちゃんが産まれそうなの手伝って。」
「おい、冗談だろ海の中で出産するのか、確かに最近じゃ頭のいい子産むには海の中がいいとはニュースで聞いたことがあるけど、ここは海のど真ん中だぞ。」
「違うの、私、前から不思議な夢を見てて海で出産するってことわかっていたの。だから、きっと赤ちゃんは無事にここで・・・」
その時、空から閃光が走り、ジェーンのお腹に入るのが見えた。その直後、マルローは何かジェット機の重低音のような音を聞いた。しばらくして、ジェーンに短い陣痛が襲った。しかし、不思議とすぐにすっきりした顔に戻った。
「お生まれになりましたね。ジェーンさん、私たちの主になる男の子の誕生です。おめでとうございます。」
「ありがとう、人魚さん。」
いつのまにか産婆さんのような人魚が赤ん坊を海面からすくいあげた。
「びっくりした、偉く、安産だな。」
見ると赤ちゃんには後光が差していた。それは、玉のようなかわいい男の子だった。
「こ、この子はポセイドン様の化身だ。」
赤ん坊の後光を見たマルローは直感した
「ポセイドン様?まさか。おばあちゃんが私の子供の頃にポセイドン様の話をしてくれたの。もうじき、千年期の区切りだから復活されるだろうって。」
「ポセイドン様はジェーンを選ばれたということだ。」
「そうだったら大変光栄なことだけど、でもまだわからないわ。育ててみてこの子が大人になってみないと。それよりマルロー、あたりを見て、不思議な光景だわ。」
月光が海面を照らしていた。よく見るとあたりには様々な魚が祝いの音頭をとるようにリズムカルに泳いでいた。飛魚が花火のように飛び跳ね、鯨がそれに合わせて潮を吹いた。
「すごい魚のパレードのようだ。そういえば、さっき死にそうになった時、冥界でポセイドン様に会ってきた。私たちは三年間、ロドス島で生活するって。」
「何言ってるの、ロドス島だなんて。あそこは昔から地獄の入口と聞いているわ。」
イルカの背中に乗りながらマルローは、話のいきさつをジェーンに説明し、赤ん坊を約束通り「ポセ」と名ずけた。

−ロドス島での生活−

日の出とともに無人島らしき小さな島が目の前に現れた。そして、その日から赤ちゃんを含めて三人の生活が始まった。彼が、風雨をしのぐ小屋を建て終わった後にジェーンとポセのいる所へ戻ると、彼女がポセに早くも泳ぎの練習をさせていた。マルローは、産まれたばかりの赤ん坊に良くないと思い、二人のいる海岸まで走り寄った。
「大丈夫か、赤ん坊を海水に浮かせて。」
「ええ、マルロー、さっき綺麗なブロンドの髪をした女性の人魚が来てこうやって赤ん坊を運動させてと教えにきたのよ。たまに来るって言ってたわ。」
「あれ、ポセはもう泳げるのか。しかもきのうより体が大きくなってる。」
「そうよね、変だわ。それにうれしそうに泳いでるし。」
「あの赤ちゃんのお父さんの方はスポーツ選手と言っていたね。何のスポーツ選手なんだい。」
「水泳の選手で、日本記録保持者だったわ。」
「おい、すごいな。日本人と白人ハーフということだから、たぶんそのお父さんよりも運動能力が上かもしれない。まあ、さっきから潜ってるけど、まるで魚だな。」
「そうなのよ、その証拠にポセの足は普通の人間に比べるとかなり大きいし、生まれつき速く泳げるようなのね。」」
二人は、ポセが魚の遺伝子を持っているようなイメージを抱いていた。ある日、マルローが近くの海辺によく遊びに来る男の人魚のシャインに疑問をぶつけた。シャインは、理知的なところがあるどこか落ち着いた性格の若い人魚だ。
「シャインさん、ポセのことで不思議に思うことがあるんですが。」
「なんでしょう。分かる範囲でお答えします。」
「ポセは、急激に成長しているようですが。なぜ、そんなことが可能なのでしょう。」
「なるほど、現代の人間は、他の動物に比べて一人立ちが遅いと聞きますが、私たちから見たらそっちの方が病気かと思いますよ。」
「そうなんですか。」
「マルローさんは、今、ポセ様が魚の遺伝子を持っていらっしゃるのではないかと思っていますね。」
「ええ、なんで分かるんですか。」
「そういう顔をさっきしていましたよ。」
「はぁ、そうなんですか。人間は考えていることが顔に出るんですね、まいりました。」
「魚の遺伝子というのは、もちろん人類にも継承されているものです。しかし、もともとそれは、ポセイドン様がこの地球意識の命によりプランクトンの単細胞生物から育てられたとされているものです。鯨やイルカもあの方が念によって創造したものですので別にその当人の分身が魚のように速く泳げても当たり前のことかもしれません。」
「そうすると、ポセはじきに成長してどうなるのでしょか。」
「それは私たちにも予想できません。でも、ポセ様はポセイドン様の化身ということが我々の部族の言い伝えからも証明されています。そして、あの方の前世も自分の成長を若干コントロールができたとも言われてます。また、体も緊急の時にはわずかに魚に近い体にもなりますが、すぐに人間の体に戻ることも可能です。これが出来るのは千年に一度生まれてくるポセイドン様の化身だけでしょう。」
「というと、肌も鮫肌のように水の抵抗をなくすような肌に変わるとかあるんですか。」
「それはないと思いますよ。人間にもテレパシーや超能力みたいなものがあるといわれてますけど、泳ぎの際、あの方は体全身に水の抵抗をなくすような念エネルギーを発しています。」
「そんなことがあるんですか、信じられません。ポセは人間なんですか。」
「はい、古代には今の文明をはるかにこえた時代があり、あの方はその時代に生まれた超人類の末裔と言われてます。獣人の話を聞いたことありませんか。」
「ええ、たしか上半身は人間で下半身は馬だとかいう伝説の話のことですか。」
「そう、今でも人によっては馬に似てるとか牛に似てるとかいう言い方をそっちの世界で言っていると聞きます。あれは獣人のなごりですね。そういう動物の遺伝子DNAをかすかに残している人間は、運動神経が常人離れしているので知らず知らずスポーツ選手になってたりしてるようです。」
「というと、ポセは獣人?」
「いいえ、超人類です。獣人は動物の野生の部分を残してますがなかなかコントロールできません。超人類は人間と直接関わり合う神様と同じです。地球全体のある部分を言えばポセイドン様は海の神様です。」
「そうなのか、すごいな。でもその海の神様がなんで普通の人間のジェーンから生まれてくるのか、わからないな。」
「ジェーンさんは、ポセイドン様の遠い遠い子孫にあたります。」
「ジェーンが???」
「驚かれましたか。」
「ああ。なんか突拍子の話なもので。」
「そちらの生物学的な研究にも先祖帰りという話があるでしょう。普通は退化してしまうことを指しますが、逆にまれに、神の意思により、太古の時代の進化した形態に戻ることがあります。といっても今の科学ではそれを突然変異と片付けてしまうようですが。」
「はい、一万年前にアトランティスやムーなどの今より高い文明があったことさえ、科学者はなかなか信じようとしませんから。」
「年を重ねた方の文明が優れている、自分たちの方が優れているといったプライドは捨てないと駄目ですよ。」
「ええ、本当に。」
「マルローさん、そういえば、こちらのロドスの孤島には遺跡がありますがそちらには、もう行かれたんですか。」
「いいえ、初耳です。遺跡というとどんな?」
マルローはキョトンとした目をシャインに向けた。
「クレタスの遺跡群の入口がありますからこれから案内しますよ。口で言うより見た方が分かりますから。」
「すみません、宜しくお願いします。」

−クレタス遺跡群−

 孤島の中央部にジャングルがある。風が勢いよく吹いたかと思うと急に静まり、鳥のさえずりが聞こえたりしている。マルローが何かの気配を感じ後ろを振り向いたが誰もいなかった。
「ふうっ、なんか不思議な所ですね。誰かがまだこの地域で住んでいるような雰囲気がします。」
「はい、今もここには多くの人々が当時の姿で霊体として生活していますのでも無理もありません。」
「そうなんですか、なにかジャスミンのようないい匂いもしますね。うーんいい気分だ。」
「マルローさん、あまり、その世界に魅せられると元の世界に戻れなくなりますよ。」
「あっ、はい、気をつけます。」
シャインに連れられたマルローは、ジャングルの木々の隙間に古代文字の標識をいくつも発見した。そして一時間も歩いただろうか、やがて二人の前に山の中腹に見える洞窟が見えた。
「ああ、ありました。この洞窟は自然にあったものを古代人の超能力によって人間が住めるようにしたものです。」
「この棚みたいな四角い穴は収納箱みたいですが、これも手を使わずに超能力で加工したのですか?」
「ええ、そうです。この岩の主成分は湧き水に含まれるカルシウムや鉄分などを固形化したものに近いので念が通りやすいのです。ここも三百年前までには人が住んでいましたが、洞窟に近付く者が行方不明になるので生け贄の穴というように呼ばれていました。」
「へぇー、そんな怖そうな所には見えませんけど。だって、洞窟といっても門があったように見えますが。」
「よくわかりましたね。はい、もともとは門がありました。千年近く前にチンギスハーンの遠征隊が破壊していったのですよ。」
「えー、こんな所にまで蒙古の襲来があったのですか。」
シャインの脳裏には怒声を挙げて攻めてくる蒙古の軍隊のシーンがよぎっていた。
「そうです。彼等は全世界を統治しようとしたのでね。なんと!むごいことを!島民のほとんど、女子供まで惨殺されてしまった。ああ、見えます。しかし、肉体を失ってもまだ、住民の彼等は殺されたことに気付いてない。軍隊は情け容赦のない人間でした。この島の悲しみは今でも拭うことはできません。」
「なんてことを。」
「そして、愚かなことに彼等は封印されていたクレタスの文明の扉を大砲を使って破壊してしまった。その時に守り神のリタールが出てきたのです。」
「リタール?」
「はい、リバイヤサンの原形とも言われる、海の竜です。この怪物はクレタスの高い文明の力により冬眠させられていました。体長は百メートルぐらいあり、皮膚は鋼鉄のように硬く、青い炎で一瞬に鉄を溶かす力を持っておりました。はじめの主が生きていた時のリタールはおとなしかったらしいのですが、その主を失ってから獰猛になり人々に恐れられてました。やがて、討伐出たはずのポセイドン様になつきクレタスの守り神となったのです。もともとは聖なる生き物だったそうです。」
「それで蒙古の軍隊はどうなったのですか。」
「ええ、一瞬にして皆死にました。馬鹿な人達です。大砲を打ってもリタールには傷一つ付きませんでした。」
「じゃ、そのあとリタールはどうしたのですか。」
「シチリヤのデルタ海域の深海でまだ生きてるというのですが確認はされてません。」
二人が森林を歩いていると海の方からするどい風が吹き付けた。
「うおー、寒い!ここは暑い所と聞いたのになんだろう、妙に肌につき刺さる風だ。」
「あれ、マルローさん!この風を感じることができるんですか。というとあなたの前世はこの島の島民だったかもしれませんね。」
「えっ、そんなことがわかるんですか?」
「はい、実は今の風はこの今現在に吹いた風ではないので普通の人は感じることはできないのです。この島の一部は千年前までは隆起していて高い所にあり、やや寒い所でした。人間は潜在意識の奥深くに前世の記憶を封印してますが前世と同じ場所に来たりするとまれに記憶が戻るといいます。」
「あれ、なんか急にいろんな風景が浮かんでいます。どうやら妄想のたぐいではないようです。誰か私にこういってます。」
「何と?」
「エス・ペール・ディ・クラウド!ラム・デイ・スタール!って。」
「そ、それはこっ、こういう意味です。」
シャインは驚いたようすで次のように続けた。
「リタールを連れし、異星より来た勇者よ。そなたの死後、リタールはポセイドン様により巨大な龍神となった。心安らかに眠れ、と。」
「私が連れてきた?リタールを??」
「そうらしいです。恐らく連れてきた時はリタールもそんなに大きくなかったのでしょう。それにリタールは生まれ出てきて最初に見た飼い主になつくといいます。」

「へー、不思議な話ですね。」
「(ガァーッ、スゥー!)」
その時聞き慣れない金属音のようなものが二人に聞こえてきた。マルローは、驚き、不意に晴れ渡った青い空を見上げた。はじめ、それは白い鳥のように見えたが、よく見るとそれは宇宙船だった。全長五十メートルぐらいの細長い乗り物でなぜか後ろの部分が半透明だったり、わずかに形が変形したりしていた。
「なんだあれは!!大きい宇宙船!シャインさんあの乗り物は?」
「今、現在のものではありません。過去の文明の残像のようなものです。あなたの魂の友人であるトネールという人があの宇宙船のパイロットだったと私の耳元で誰か言っています。ここから見ると巨大な宇宙船ですが、ここのG3銀河系の中では小型の部類に入ります。」
しばらくして宇宙船が三百メートル先の小高い丘に着陸したかと思われたが、一瞬の内に姿形が消えてしまった。
「あれ、急に消えた。」
「いや、海の向こうの方に移動しましたよ、ほら!」
「速い!!瞬間移動ですね、初めて見ました。動力は何を使ってるのですか。」
「反重力エネルギーです。これは次元間を移動するのにも都合のいいエネルギーです。地球にはない物質で核エネルギーよりも安全で効率の良いエネルギーが得られます。一つの宇宙船には手の平サイズの特殊金属板からエネルギーを吸収し一年近く惑星間を移動できるそうです。ちょうどこんな三角形の形をしたものを丸い透明な吸引体の箱に入れています。」
そう言ってシャインが両手の人差し指と親指で三角形を作って見せた。
「そんなに小さいもので動くんですか、すごいなぁ。あのー、すみません、反重力ってどうやってできるんですか?」
「おもちゃの小さなモーターを回してそれをまた少し大きなモーターで回せば簡単にその場で体験できますよ。」
「へ?」
マルローは頭の中で想像してみたが、配線が回転によってからまってしまうイメージがありうまく理解出来なかった。
「重力の反復運動を繰り返すうちに物体が宙に浮いている丁度よいポイントがあるのです。リニアモーターカーはその初期段階の乗り物ですね。ただ、宇宙船にするにはさらに反重力を生むアルミに似た金属を船の外壁全体に覆う必要があります。」
「はぁ、そうなんですか(うーん、わかったような、わからないような。まっ、いいか)。あと、質問なんですがシャインさん、もしかして宇宙にはもっと大きい乗り物があるのですか。」
「はい。一番大きいものは一千万人ぐらいの人を乗せられるものがありました。一つの都市そのものが浮いているようなその宇宙船は、その星に資源が枯渇したり天候が変わって住めなくなったための緊急移住用のものです。エグゾダス、またはノアック・エミールと呼ばれていました。環境の整った惑星を探索するには、かなりの年数がかかるため宇宙船には人間が冬眠のできるシステムがありました。」
「それじゃ、何かの間違いで親子で年が子の方が先に年取ることもあったのでは。」
「まぁ、それはありませんが、冬眠の時間が長すぎるのもいけません。そのまま寝たきり状態になる危険性もあります。」
「そうですか。屋内にはもしかしてテニス・コートとかあったりするんですか?」
「はい、ほとんど地上と変わらない生活が出来ました。ただ、食物連鎖のコントロールが出来るようになるには精神的にも魂そのものが進化していかないと無理らしいです。」
「へえー、じゃ、例えば普通の人類がそのノアテック・エミールに乗ったとしたらどうなります?」
「案内役の優れた宇宙人がいなければ三年も経たないうちに宇宙船の資源が枯渇し、また、宇宙船内で争いが起きて船は破壊されるでしょう。文明が滅びるには理由があり、科学の発達が人間の魂レベルを越えすぎるとその科学によって人間が自滅するということが言われています。」
「じゃ、例えば、宝くじが当たった家庭が後々不幸の道をたどりやすいというのは、お金を使いこなせないというか、運命に翻弄されてしまうということなのでしょうか?」
「ハハハッ、マルローさんの例えは庶民的で面白いですね。そうです。お金もその正しい目的を持っている人に行けば生かされますが、逆に享楽のために使い続けると、ある人はおいしい物を毎日食べ過ぎたりして糖尿病になりますし、ある人はそのお金を賭け事に投じて逆に借金を抱えることもあります。余計なお金はかえってその人の寿命を縮めるものなのです。」
「シャインさんは現代のことにも詳しいんですね、驚きました。」
「いいえ、たまには仲間の持っている変身特殊能力を借りて姿形を人類に近付け、陸に行って普通の人と同じようにテレビ番組ぐらい見ますから。そういえば地球では第二次世界大戦中に、原子力という大きな発明がなされましたね。あれも大きな宝くじが人類に持たされたのと同じです。魂レベルが進化していなかった人類は地球人類と生物全体を何十回も絶滅できるほどの核兵器を生み出しました。今もなお、どう扱っていいのか悩んでいるのが実情のようです。」
「魂レベルかぁ、それってシャインさん、すぐにわかるものなのですか?」
「ええ、機械でもアトランティス時代にスピリット・サイメーターというのもありました。あれは嘘発見器の発展型のようなものです。その機械がなくても心の澄んだ人間同志ならばお互いの魂を感じることができます。それは澄んだ水の中で魚同志がお互いの姿を知ることに似ています。しかし、現代社会はまるでその水をわざわざ汚して互いの意思を隠そうと必死です。それは愚かなことです。」
「へぇー、スプリット・サイメーターというのがあれば好みの女の人が自分のことを好きかどうかわかるし、犯罪者の見分けだってできるだろうから欲しいですね、それ。」
「マルローさん、機械は機械ですよ。本当の人間の透視能力にはかないません。そういう機械というのは補聴器と同じです。」
「そうですか、補うものだったんですか。補う前にその対応できる能力がなければ使えないものだったんですね。」
「はい、それは今の人類にとっては心技体がそれなりに均整がとれていて多少の訓練をしないと得られないものでもあります。ところでマルローさん。前方をご覧ください。」
「えっ?」
二人が海岸から歩いてきて一時間経過しただろうか。シャインは、急に前方を指差した。マルローの前に別れ道が二つ見える。
「あのふたつの道は?」
「ある森につながってます。一つは浄化の森。一つは試練の森です。」
「浄化というと洗濯機のようなもので体を洗われるとかいう意味ですか。いや、森に洗濯機はないか、滝にでも打たれるのかな。」
「洗濯機は置いてありませんが本来の自分を取り戻すためのプログラムが仕組まれてます。ここは霊場といわれる所です。また、言い換えれば霊界の入口でもあります。地球には幾つかこういう場所があります。」
「子供の頃に地獄の入口もあると誰かに聞いたのですが。」
「ええ、あります。巨大な門構えがあり、人々が泣き叫ぶような彫刻や像が入口にあります。本来はこの地球になかったものなのですが、多くの人間の魂が予想外に堕落してしまったため、このような巣窟ができてしまったのです。ただし、忌み嫌う必要はありません。病んでしまった魂の病院だと考えれば良いと思います。もともと悪い人間など存在しないのですから。」
「巨大な門、・・・・・なんか夢の中でそのような地獄の門を見た気がします。」
「そうですか、まあ、マルローさんのように混乱した娑婆の世界に生まれ変わって生活していると魂が厚い皮をかぶった状態になってしまいますから、眠っている間に魂が呼応しているかもしれません。ただし、これからポセ様の父親代わりなって頂くためにこの浄化の森に行ってもらうことになります。よろしいですか。」
「はぁ(困ったなぁ、怪獣とかと戦うんだったら無理だぞ、断ろうかな)。」
「そんなに心配なさらないで、怪獣は住んでませんよ。本来の自分に戻るための旅だと思ってください。」
「(あれ、やっぱり考えてることわかっちゃうんだな)わかりました。ただ反対側の試練の森は何があるのでしょう?」
「あれは私も詳しくはわからないのですが、戦闘士を鍛えるための所だと伝えられています。間違ってもそっちの方に行かないでくださいね。たしか、最近ではわざわざ尋ねてきたタイのムエタイ最強の元チャンピオンが入って行ったきり帰ってこなかったといいますから。」
「うわー、それは大変だぁ。でも気をつけます。」
「OK!じゃ、マルローさん、特別に修士名を授けますから覚えておいてください。」
「えっ、マルローじゃ駄目なんですか。」
「はい、実は、マルローさんのお名前ですと今世の記録が霊界の役所の方にあって名前だけで即座に地獄の方へ案内されると思われるのです。そうすると意味ないのですね。この世にも戻って来れなくなり本当に死んでしまいますから。」
「ゲゲッ、やっぱり。」
マルローも自分がこのまま死んだらろくな所にいかないだろうなと納得していた。
「えっと、そうですね、浄化の森のマルローさんの修士名はエスペリオンとしましょう。」シャインが一枚の紙を広げてはまた四つにたたんだ。
「わかりました。エスパーでしたっけ?」
「違います、よく聞いてください、エスペリオンです。先祖の偉い方の名前ですから。間違わないでください。」
「はい、エスペリオンですか、なんか競走馬みたいな名前だ。」
「ええ、たしかにエスペリオンはこの地方では伝説の勇者とたたえられており、国一番の健脚の持ち主でもありましたが、馬ではありませんよ。」
「すみません。でもどういう時に使うのですか。」
「森には何人か番人がいます。それも人間とは限りません。何かをいろんな形で教えてくれますが、だいたいは最初のあいさつの時に名前を聞かれますから、そのつもりで。」
「なんか学校の答案用紙みたいですね。」
「はいはい、エスペリオンさん、頑張ってください。明日の朝、迎えに来ますから。」
そう言うとシャインは、引き返し始めた。
「ちょっと待ってください!!帰ってこれないということはあるんですか。」
「大丈夫、大丈夫、帰ってこれなくなったら空から大きな鷹を寄越しますから。待てよ、あの怪鳥、人食べるような食べないような。」
「ご冗談を。」
「ハハハッ、まぁ、お気をつけて。」
そう話すシャインの後ろ姿はその名の通り宝石のようにピカピカと輝いていた。
「ああ、行ってしまった。一人だと心細いしなんか緊張するなぁ。だいたい魂に皮なんか被るかい。包経とかと間違えてんじゃなかろうか。」
そう言ってマルロー改めエスペリオンは、トボトボと浄化の森の入り口へと歩きだした。

−浄化の森−

 入口らしき古代文字の標識をすぎるとそこに二メートル四方の大きな鏡があった。しかし、自分の姿はあらわれない不思議な鏡であった。
「なんだ?この鏡、後ろの壁は映ってるのになぜ自分の姿は映らないんだ。」
「ゴゴゴッー!!!」
右側の大きな石壁から煙のようなものがたちこめ、仙人のような老人が現れた。
「オオーッ、びっくりした。ここは肝試しする所か、待てよ、遊園地の中のお化け屋敷の入口じゃないのか。」
「馬鹿なことを申すでない。おぬしの名は?」謎の仙人がするどい目つきでエスペリオン(マルロー)をにらみつける。
「(ゲッ、金縛りにあってしまった。動けない。)えーと、えーと、エスペリオンですだぁー。ハァ、ハァ、あれ体が自由になった、変なの。」
「ほう、これは珍しい、おぬしがあの異星人でかつこの国の伝説の英雄の一人であるエスペリオンと同じ名というのか。」
「は?(なんだ、そんなにすごい人なのか)はい、まるっきしエスペリオンです。」
「ほう、まるっきしね。まあ、よい。この鏡になぜ自分の姿が映らないと先程話しておったが。」
「はい、なぜでしょう。」
「それもそのはずじゃ、ここは死んだ者がそれぞれの霊界に行く前に己の人生を嘘も真実も隠さず見られてしまう黄泉の鏡なのだ。」
「(なんだ、結局、地獄行きじゃないか。)えへへ、か、鏡ですか。あの、私、死んでるということですか?」
「死んではおらん。生きている人間の中には特別に使命を帯びた者がおるじゃろ。例えば預言者のような者もそうじゃ。ああゆう者は自由に霊界に行くことができる。それに霊界といってもここは現実社会との狭間じゃから生身の人間が来たり、浮かばれない霊が来たり、何でもありなんじゃよ。」
「なるほど、あの、すいませんがお爺さんは仙人様では。」
「そうじゃ、わしの名はスタッカ。七百二十三歳だからまだ若いもんじゃが。」
「うわ、長生き、年金まだ出てるんですか。」
「何を申すか、年金などあるわけないじゃろ。まあ、おぬしの口が悪いのは大目に見るとして、とりあえず、エスペリオンの今世の行いをこの黄泉の鏡で見る。覚悟はいいかのう。」
「えっ、いいですけど。なんか照れるなぁ。」
黄泉の鏡の中に渦のような水流の模様があらわれた。
「あれ、変じゃな。なかなか出てこんな。この大鏡、今日は調子悪いぞな。」
「修理屋さんでも呼んだら、エヘヘ(やべー。俺、本当の名前はマルローだからな)。」
「まあ、よい、小さい携帯用の鏡も持っとるからのう。カバン、ワシのカバンはと、ほれ、あった!」
仙人は、ボロボロの革袋から何か取り出した。
「ぬおー、なんだそりゃー。」
「この手鏡はメインの記録所のものとは違って、本人の魂記憶からじかに読取り写しだすものだからのう。便利なんじゃが、見なくても良いものまで写してしまうんじゃ。例えばトイレで用を足してる所なんぞ写してしまうからのう。ほら、おぬしのモノが出た出た、気持ち良さそうだのう、おぬし、ほれ見てみい。この時、どうやら三日ぶりだったようじゃな。」
「(プッ、はずかしいな)す、すいませんがビデオのように早送りはできないのですか。」
「わかった、わしの念を使うことによって肝心な所だけ写しだすことはできるから。」
「じゃ、はじめからそう言ってくださいよ。」
「まあ、いいじゃないか、この手鏡、最近使わなくなったのでいい機会だから。」
「困ったじじぃだ。」
「今、なんか、言ったか?」
「いえ、何も。」
「そうか。」
急に手鏡に映像があらわれた。
「あっ、私の両親だ!うおー二人とも若い。それに若い頃の親父がこんなに自分に似ているとは思いもよらなかった。」
「おぬしの両親はおぬしが生まれてきて大変喜んでおる。ほう、かわいい赤ちゃんじゃ。母親がマルローと何度も呼んでるが、携帯用オマルのことかのう。」
「そうそう、うちは代代大切に受け継いでる子供用のオマルというか、簡易トイレがあるんですよ、あははっ。」
「ほう、そんな家もあるのか。変わった家柄もあったもんじゃな。」
「ええ(なんかもうバレバレかも)。」
「しかし、悲しいかな、今の人間は成長するにつれてだんだん魂が曇ってくる。この世の中には多くの欲望が渦巻いておるからのう。」
「すみません、スタッカ様。その不思議な鏡ですと普段見えない物が見えるのですが、人間の胸の中央みぞおちあたりにさしてる光の線はなんですか?」
「あれは太陽光の霊エネルギーとも言われる神の光じゃ。あの永遠の光によって我々の魂はエネルギーを得る。我々は皆、神により生かされておるのじゃ。」
「そうなんですか、すごい。あと後頭部の天辺のところからクモの糸のようなものがあるのですが。」
「それは霊糸線というものだ。切れてしまうと死んでしまう。よく死神が斧のようなものを持っとる絵とか見たことあるじゃろ。あの斧でその細い糸を切るのじゃ。霊糸線はいくらでも伸びるものなので簡単に切れるものじゃない。それに人間は誰しも見えない守護霊がいて守られているからのう。」
やがて、不良青年の時のマルローの姿が黄泉の鏡に写しだされた。
「あっ、おぬしは大泥棒になったのか、この馬鹿者!!」
「・・・・・、仕方がなかったのです。この世の中は真面目に生きているものが馬鹿を見るのです。こうでもしなければ我々は生きて行けなかったのです。」
スタッカ仙人は憤怒の面相でエスペリオン(マルロー)を睨みつける。
「それは、言い訳にすぎん。ここに、先程ある人に託されたおぬしの生まれ変わり誓約書がある。この紙にはおぬしが、この汚れきった世の中で菩薩となり天使となるという聖なる誓いが書かれておるのだぞ!!」
「へっ、そんな大それたことが。本当ですか。」
「本当じゃ。これらの誓約書というのは、高望みの誓いはあの世の役所で却下され書き直される。ということはおぬしには実現可能の誓いだったわけだ。このままでは生まれ変わりの誓いと逆の人生ではないか!」
「しかし、それは。」
仙人はエスペリオン(マルロー)の言葉を遮った。
「しかしもクソもあるか!よいか、この世の中は、悪の実も転がっておるが善の実もたくさん転がっておるのじゃ。家が貧しくとも学業を積み、仕事の経験を積んでお金持ちになり、他人に尽くした者もおる。」
エスペリオン(マルロー)は仙人の言葉に納得できなかった。
「はい、たしかにおっしゃる通りです。しかし、この世の中に多くはびこっている政治家や資産家はどうですか。皆、国の税金やら弱い者から搾取したお金に私腹を肥やし、虚栄を張っているだけじゃないですか。私は、そんな偽善者が許せなかったのです。」
その声を聞いたスタッカ仙人は自分の持っている杖ふりかざした。
「エルダ・ラムー・ソアラ・・・・」
黄泉の手鏡が別のものを写しだした。
「テリー兄さん!」
「この者が、なぜ無理に真面目に生きようとしたのかわかるか。それは、お前たちの行いを自分の背中を見せることで正そうとしたからだ。」
「あっ、かわいそうにテリー兄さん。銀行の融資を断られてからというもの必死に力仕事をしてお金をためようとしている。」
「この者は、自分が名誉と地位を得てお金持ちにでもなれば、お前たちが改心すると思ったのじゃろ。世の中にはこの者のように純粋なる心の持ち主もおるのじゃ。わかるか、エスペリオン、いや、途中でわかったが、おぬしの本当の名前はマルロー!そうじゃな。」
「はい、おっしゃる通り私は、マルローです。」
「テリーが生きた年月というのは二十九年と三か月。非常に短いものだ。しかし、この者は神の意思に適った生き方をし、魂も清らかだったので今では天界の住人となっておる。」
「テリー兄さんは、あのような死に方をして幸せだったのですか。」
「マルローよ、じゃ、おぬしに尋ねるが、幸せとは、なんだと思う?まさかおぬしはたくさんのお金を持ってるとか、顔がハンサムだとか学歴があるとか高い地位や名誉やらそういう目に見えるものを見て幸せだと判断しているのではないかね。」
「ええ、確かにお金がなければ食って行けませんし、他人からチヤホヤされればうれしいものです。」
「おぬしには悪いがのう、このままの人生では、あの世でテリーに会うことはできないじゃろうて。」
「何でですか!」
「根本的に考え方が幼稚すぎる。初歩の初歩にも来ていない。」
「じゃ、仙人様、幸せとはなんですか!!。」
「わからんようなら、少し教えてしんぜよう。まず、今、テリーの心、魂を感じてみよ。それくらいは出来るじゃろ。わかるか、ほら、この鏡に写るテリーの顔には、困難に打ち勝ってみせようという気持ちが出ているだろう。おぬしは知らなかったと思うがこの者の妻は体が不治の病で先天的に弱くお金がかかったのだ。しかし、彼は献身的に看護した。残念ながら彼の妻は二十五才の若さで亡くなったが、生前の彼女は彼に感謝し幸せであったのだ。他人に尽くし他人に感謝される人生、そのような魂の高揚こそが本当の幸せというものだ。おぬしはその己の中の勝負にズルをし初めから負けておったのじゃ。」
「・・・・・はい、考えてみればその通りです。私は、はじめから貧困に平伏し、安易に他人に迷惑をかけることばかりしていた。なんてことだ、そんなことに気付くのに三十年も過ぎてしまった。」
うつむいていたマルローの瞳に自然とひとすじの涙がすうっと流れた。そして、さらに言葉を続けた。
「・・・・・はい、でも私はあの世でテリー兄さんに会いたい!どうすればいいんですか!!」
「困ったのう、まさかそう言うとは想像しなかったが。待てよ。おぬしの前世をちょっとのぞかせてもらうぞな」
スタッカ仙人は、大きい鏡に向かって大きな声で呪文を唱えた。
「クラウド・リト・サフラーナ!」
鏡に、虹色の光が散った後、マルローの前世が写った。それは千年近くも前のもので場所は地中海を臨む地域であった。
「なっ、なんてことだ、おぬしはあの本当のエスペリオンだったと!信じられん。」
エスペリオンの勇姿は素晴らしかった。背は二メートル近くあり、髪は美しい金色、服装は異星人特有の不思議な防具服をまとっており、国の勇者だけに許される大きなケイ・ブレイブ・ソードを腰に付けていた。
「私も信じられません。」
鏡には、遠い惑星の異星人と交信し、地球にリタールを連れてきたさまが写し出されている。
「そうか、はじめはエスペリオンだと聞いておぬしを疑わなかったのはおぬしの前世の印象がまだ残っていたからだろう。すると、うーん・・・・・なるほど、わかったぞ。おぬしの人生の予定が今世で狂った原因が。おぬしは今もこの古代の時代に滅ぼした敵の部族の怨念と呪縛を幼い時にかけられておる。だから、本来偉大な人間になるべきところがとんでもない悪人に成り下がったのじゃ。」
「そういえば、時々ゾンビに追いかけられるような夢を見ました。」
「いや、それは単におぬしが泥棒で警察から逃げ回っていたからじゃ。」
「えっ、そうなんですか。」
「そうじゃ、アホたれ。」
マルローは赤面してしまった。スタッカ仙人はさらに言葉を続けた。
「それに前世と今世とでは、まったく同じ人生を辿るということはない。」
「どういうことです?」
「だいたい人間の個性というのは生きているうちに全部花咲くことは皆無じゃ。目標はあってもだいたい途中で挫折したり事故にあったり運命の悪戯に翻弄されておる。その時代によって個性の出方が違うということじゃ。ただし、魂の傾向は似ている。例えばマルローよ、おぬしは金持ちから盗んだものを貧しい者に施していただろう。」
「はい。たしかに。」
マルローの脳裏に恵まれない者たちの喜ぶ顔が浮かんでは消えた。
「おぬしのしたことは悪行の一つだ。ただ、その中にも救いはあったようじゃな。」
「と、申しますと、どういうことなのですか。」
「完全な人間はおらぬからな。人生というのは足算なのだ。その者の善行足す悪行でマイナスになれば地獄へ行くし、プラスになれば天国へ行く。難しく考える必要はない。あの十戒のモーゼでさえ人を殺しているのに、たくさんの人々を助けたので天国に帰ってる。おぬしは人のために生きた部分があるのでその罪は軽減されるだろう。しかし、ボーダーラインじゃな、もうすぐ地獄というかんじにわしには見える。」
「自分もそう思います。何か、私に出来ることはありますか?」
「わしの話すことはここまでじゃ。あとは、後ろに隠れている青年に尋ねるがよい。」
「えっ!」
マルローは後ろを振り向いた。すると木陰に顔をのぞかせる背の高い青年がいる。
「おーい、なんだ君は、どこから来たー。」
「海からです、マルロー父さん。」
マルローは一瞬耳を疑った。
「その声はポセなのか?信じられん、また、背が伸びたじゃないか。」
ポセの成長はまるで一日が普通の人間の三週間に相当するくらいの速さであった。島に不時着して一年経つはずが、ポセは十五歳ぐらいの成長を遂げていた。背も百八十センチを越えていたので、マルローよりも背が高くなってしまった。
「たまに僕は、ここの森にも遊びに来てたの。それに、さっき偶然シャインさんにも会ったよ。」
「えっ、なんか言ってなかった?」
「僕が昨日より急に十センチぐらい背が伸びたので驚いてたけど。それ以外は特に何も。」
「そうか、なんだ話してないのか。今日のこと。」
「ああ、そのことなら知ってるよ。魂レベルを元に戻すとかいう修行でしょ。」
「なんだ、これは修行なのか。」
「マルロー父さんは、エスペリオンの生まれ変わりだったんでしょ。すごいなあー。」
「あれれ、何でも知ってるんだな。誰に教えてもらったんだい?」
「前、ここ来た時に、すごい大きな鏡の前で歴史ものの映画やってて、たくさんの人と一緒に見てたらマルロー父さんの説明があったよ。」
「ゲゲッ、なんだそれは、そんな映画、あるのか。」
「うん、記録映画だよって隣のおねえさんが言ってた。他の時代のも見たよ。昔は三メートル以上の人間もいたんだね。」
「そうなのか。それでここに何人ぐらいいたんだね。」
「わかんないけど、十万人ぐらいかな。」
「アホか、そんなにたくさんいるわけないだろ。だいたい、座るところがないぞ。」
「うん、でもね。座る人と空中から浮いてる人もいたよ。ほら、今も皆ここに来てる。」
「どれ、誰も見えないぞ。」
マルローは海の方向を見ていたが、人の姿がない。
「こっち、こっち。」
ポセが反対側の方を指差した。すると数え切れないほどの人の姿が目の前にあった。
「なんだこりゃ、わけわからん。」
マルローは、驚いて腰が抜けそうになった。やがて、大きな拍手が湧き、人々は口々に声援を彼に送った。
「エルダー、ロベルト、エスペリオン!!」
「ハア?なんて言ってるんだ。」
「偉大なるエスペリオン様だって。すごいよ、前より人が増えた。」
人々は、色とりどりの古代文明服を身にまとっていた。
「あれ、おかしいな自分が着ているいる服がりっぱになってる。どういうことだ、あれ、ポセがいない、おーいどこだ、ポセ!」

「呼びましたかな、エクスペリオンさん。」
「あっ、どうもどちら様でしょう。」
「困りましたね、お忘れですか。私ですよ、ラ・メイツァー・ポセイドンです。」
「はぁ(大きな人だなぁ、相撲でもやってるのかなぁ。そしたらきっとチャンコとか好きなんだろうなぁ)。」
大勢の人々の声が交錯し、声が聞き辛くなっていた。
「ハハハッハ、もうすぐ記憶が蘇りますよ。」
「えっ、そうなんですか。蘇るんですか、死んだ人が(ゾンビのことかな)。」
「はい、いいですか。ダルテ・ニー・ユウー・アカシック。」
天から一筋の光が表れるとマルローの頭上を照らした。マルローは何か耳鳴りのようなものが鳴ったと思うと急に懐かしい気分になった。
「ああ、久し振りだなぁ、地球は。」
「記憶が戻りましたか。」
「はい、どうもごぶさたしてます、ポセイドン様。」
「今は、どの星で指導されているのですか、エスペリオンさん。」
「ええ、本体はオリオン星雲の中心にあるシグマ・シーターという惑星です。分身の方は地球の方とその裏の姉妹宇宙にあたるフート銀河系のカレイドという惑星にいます。」
「カレイドという星は、かなり地球環境に似ているので、かなり忙しそうですね。」
「いや、ポセイドン様ほどではありませんよ。ただ、地球での分身のマルローは悪い想念帯に阻まれてコントロールが出来ないでいました。それをうまい具合に本体の私を呼んで頂いて助かりました。本当に有難うございます。」
「いいえ、久し振りの時空の旅も楽しいものですから。」
「旅というと、そうそう、しかも、アカシック・レコードのメインデータから私の記憶を呼び込むことができるなんて、普通では考えられないことです。」
その場に平伏していた仙人が顔を上げた。
「あのう、お二人ともじかにお会いするのははじめてかと」
「あー、ご苦労様、スタッカ仙人。この島を五百年近く長くお守りくださり有難うございます。」
「いえいえ、とんでもない、わしはこの島が好きなだけですわい。ところで、エクスペリオン様、わしも何とかレコードとやらの話は昔聞いたような気がするんじゃが、何のことじゃったか。」
「はい、アカシック・レコードのことですね。それは、銀河系ごとの管轄にある文明の歴史や個人の記憶のメインバンクのような所で、高度の精神レベルを持っていないとその次元にアンテナを合わすことは出来ません。」
「ほうー、音楽のレコードのことではなかったのじゃな、勘違いしてたわい。」
「ええ、広い意味での記憶ということです。生きたままこの記憶の図書館と交信して出入りするには、なかなか難しいことです。」
「そうじゃったか、未熟者のわしが知らないはずじゃ。しかし、それにしても人間に生まれてくるというのは、難しいものじゃ。その己の使命というのを知り、全うの人生を送るということは並大抵の努力では達成できるものではないからのう。」
その言葉にエクスペリオンがうなづいた。
「はい、人間というのは、上をめざして行くには多くの修練、努力、そして時間が必要です。しかし、落ちてゆくにはほんの一瞬です。何十年も慎重に積み上げたものが、些細な憤慨、怒り、嫉妬などで一瞬に無駄になってしまいます。」
「そうじゃな、それに人間は、お互いを差別したがる生き物でもある。例えば、社会的地位を得た人間が高慢になり、他人を見下ろした態度をとる。ある馬鹿な社長は社会的地位を利用して、大衆ので面前で異性にセクハラ行為を働く。まったく、このような人間があの世に行くとロクな所に行かんわな。鬼にいつも踏まれてペシャンコにされるのがオチじゃ。ワシが、この間、地獄で見たスケベ社長は顔に大きな鬼の足の蹴りアザをつけられて人殺し女から逃げまわっていたわい。」
その言葉にエクスペリオンは、少し笑いながら答えた。
「ハハハッ、そうですか。生きている内に潔く罪を認めて出直せば、取り返しがきくこともあるのに残念なことです。」
「そうじゃな。生きているうちに、迷惑をかけた他人や神様と和解できれば、あの世でそんなに苦しむこともなかろうに。」
「はい。また、人間は、己の幸せというものに対して鈍感とも言えますし。」
「鈍感というと?」
スタッカ仙人が質問する。エクスペリオンははるか遠くに見える夕焼けで紫色に染まる山々を見て感慨深くつぶやいた。
「ご覧ください、あの美しい山々を。私たちは、あの橙色が紫色に変わる夕日の色の神秘にふれ、美しいものに魅せられます。時には山の頂上にかかる帽子のような雲や、まるで天女が舞っている姿の雲を見ると偶然の産物とは言い切れない不思議な気持ちにさせられます。しかし、人間は常に己の欲望に執着するあまりに、このような美しさを感じることが出来ず、自分たちが神に愛されてことに気が付かず、生活が足りていることに不平をいい、幸せだという感覚を忘れています。」
「ほう、そうじゃな、わしもあの雲に乗り、しばしの自由の味わうことがある。もしも、人間に五分間でも空を見る習慣があったら地上の争い事もちっぽけに見えて少しは平和になるじゃろうて。まぁ、これは冗談じゃが、美しい女性を見て、なんとも思わない男はアホだしのう、鈍感というのも困ったものじゃな。」
仙人の後にポセイドンが言葉をはさんだ。
「足ることを知るとは、これも日々修行の一つにすぎません。しかも、生きている人間は移り行く環境に俊敏に適応していかなくてはならないのです。特に弱肉強食の人間世界で生きているということは大変難しいことなのですね。ですから天上界にある魂や神の思いが助けよう、助けようと役に立つメッセージやインスピレーションを絶えず送り続けています。しかし、そのインスピレーションを実際にどう活かすかは各人の自由意思にまかせており、空振りに終わることが多いのです。」
スタッカ仙人はおもむろに自分の持っている不思議な黄泉の手鏡を覗き込み再び話しだした。
「なるほど、じゃがな、良いインスピレーションばかりじゃないぞな。ほら、ここに魔族の姿が写ってる。この者らは神に嫉妬し怨念のようなものを吐くと同時にで常に人間の欲望を刺激し破滅の道へと誘っている。」
さらに鏡には地獄に落ちることを拒み、生きている人間にとり憑こうとしている悪霊の姿が見える。
「人間の肉体とは一つは媒体のようなもの、乗り物みたいなものじゃ。とくに、最近の人間というのはすぐ感化される。先進国の人々は平和ボケでテレビのニュースなどなんの疑いもなく信じておろう。どこかで悲惨な事件があると、同じような事件の模倣犯が出てくる。これは、人間に目的意識がないとこうなるのじゃな。わしから今の人間を見ると皆附抜けのように見えるわい。心がいつでも洗脳されたがってるようにも見える。スキだらけで危なかっしくて見ておれんわい。」
これを聞いたエクペリオンが言葉を返す。
「はい、その通りです。人間という生き物は正しく物事をみる倫理観を持つことが大変難しい。何かの欲望が満たされれば善人が悪人に変わってしまう可能性が常にあります。これは特に、神の存在を忘れ、生き様を見られているという意識がないため、他人に分からなければ罪を犯してもよいという未熟さがあるためです。さらに間違った信仰によって滅びを迎えることもあります。これは、心の飢餓という問題に言い換えることができます。」
「心の飢餓?ほう、なんかだんだん哲学のような難しい話になってきたのう。もう、ちょっと、この老いぼれにもわかりやすく話してくれんかのう。」
「はい、では、スタッカ仙人、人間にとって何が一番恐ろしいことか、わかりますか。もちろん、自身の死の恐怖は除きます。」
「なんじゃ、お金がないことということか?」
「いいえ。」
「じゃ、夢が持てないということか?」
「ほしい!それに似たようなことです。」
仙人は、首をかしげた後に目を閉じ瞑想した。
「なるほど、そうか、わかったぞ。さっき、心の飢餓と申したな。やることが何もない、暇すぎるということが、人間にとっての一番の恐怖なんじゃろ。」
「その通り。平和の時代が崩れさるとしたなら、そのほとんどがこの心の飢餓が原因です。」
「そうなのか、もっと複雑かと思ったが。」
「ええ、確かに宗教上の問題などで数世代にわたって国同志が争うこともありました。しかし、このもともとのきっかけは、ほとんど心の飢餓なのです。私はこのような事態を今まで多く見てきました。ある国の代表が、この心の隙間を埋めるため、様々ないいがかりをつけて戦争を起こすことにより、国民や他国の人々に多大な迷惑を与えることがあったことを。彼の心の中は、巧妙に偽善を取り繕うことと歴史に名をとどめる英雄になりたいことだけなのです。このような人間からその功名心をとるとその人間はほうっておいても不抜けになり発狂するでしょう。」
「うーん、わしはいまいちピーンとこないが、国の代表者が頭のおかしい者であると、その国民は不幸なことぐらいはわかる。また、今の世の中、戦争をおこせば、傾いた国の財政を救うことができるという、一個人のまたは一企業の勝手な憶測が、裏で堂々とまかり通っておる。まったく愚かなことじゃ。」
「はい。フゥー、それにしてもだんだん意識がもうろうとしてきました。」
トンネルのようなイメージが脳裏に広がり、エキスペリオンの魂は、カレイド星でその分身がモミルトという科学の国で大統領をしているため、隣国のアレイという野蛮な革命国家との紛争の解決のためにマルローの体から抜けていった。
「わが分身のマルローよ!ポセを頼んだぞ。」
「はっ、はい。あれれ、夢だったのかな。」
気が付くと、辺りにいたたくさん群衆は見えなくなり、地獄の入り口へ繋がるような所にマルローはいた。スタッカ仙人が彼の肩を軽く手でたたいた。
「おぬしはもう大丈夫そうじゃな。試しにポセと地獄めぐりでもしてゆくがよい。わしはちょっと家の掃除を鬼ババに言われておるからのう。」
「あっ、仙人様、どうも有難うございます!」
仙人は急に体を紙のように薄っぺらにさせてヒラヒラと空の上を飛んでいった。
「土産にわしの鏡をやるわい。」
空から不思議な手鏡が落ちてきた。それがマルローの頭を直撃した。
「(コンッ)いたたっ、何か降ってきたぞ。まいったな。あれ、あの時の手鏡だ。」
「アハハッ、マルロー父さん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫。それにしても浄化の森だというから、森で妖精にでも会って何かあると思ったら、いきなり地獄か。わけわからん。」
「地獄の出口の先に浄化の森があるって仙人さんが言ってたよ。この間も地獄巡りしたら人間博物館みたいで面白かったよ。行ってみようよ。」
「博物館?楽しそうだな、そうか、じゃ行こうか。」

-地獄の門番-

 五分ほど歩くと二人の前に自動歩道のような通路が現れた。その先に巨大な門が薄い霧に包まれて立っている。
「ポセ、なんでここに自動歩道があるんだろう?空港にでも行くのか?」
「えーとね、死んだばかりの人って、迷いやすいし、文明も発達したんだからと地獄の役人が最近つけたらしいよ。」
「ふーん、なるほどね。こりゃ面白い地面が動いているから、楽だわ。」
十メートル以上もある巨大な門の前に、まるで神話に出で来るヘラクレスのような筋肉隆々の門番がひとり立っていた。
「おい、お前、ここは生きている人間が来るところじゃないぞ。」
門番がマルローをにらみつける。
「(怖いなー)すみません、修行のために見学に来ました。」
「マルロー父さん、だめだよ、びびっちゃ」
「あれ?そこにいる青年はこの間来た小僧の兄貴か?」
門番が問い掛ける。
「違うよ、本人だよ、サライトさん。」
「ハハーン、俺様の名前を知ってるとは。変身魔族にしては用意周到だ。まあ、手合わせして確かめさせてもらおうか。」
「おい、いきなり格闘はないだろ。」
「大丈夫、少し下がってて。すぐ終わるから。」
サライトとポセが五メートルの間で対峙した。二人ともじっとしながらなぜか目をつぶっている。
ズコーン
急に二人の間に雷が落ち大地に大きなクレーターのような穴が空いた。マルロ−は驚いて咄嗟に身を伏せた。
「びっくりしたー、何が起きたんだ!」
砂ボコリの中で火柱のようなものが見える。よく見ると二人とも拳の打ち合いと同時に念動波のようなもの発している。
「お前なかなか、腕を上げたな。じゃ、これはどうだ、スプレックス アッパー!!」
サライトが直線的な攻撃をやめ腕を突き上げる打撃と念攻撃を同時に行った。
ビュッ、ビュッ、バーン!!
ポセは、まともにアゴに一発食らったようだ。
「今のは効いたよ。」
しかし、一瞬の間合いでポセの方でダメージを軽くしたようだ。
「ゲ、スプレックスを受けても笑って立ってやがる。さすがポセイドンの生まれ変わりだ。しょうがない、最近試しているこの技を使わしてもらうか。」
「トロンエルダーという技でしょう?別名、龍神の怒り、だっけ。」
「なんで知ってる?」
「ごめんね、僕は、戦う相手の持つ技のチャートを瞬時に予測するエターナル・ソフィアをこの間、試練の森で手に入れたから。」
「嘘だろ、困ったな、誰にも見せてない技なんだがなー。やりにくい。でもいくぞ!これがトロンエルダーだ!!!」
門番のサライトが指先から龍神を放つとすさまじい竜巻が起き、ポセに襲いかかった。
シュ、シュー、ゴー!
「オーイ、なんてことするんだ」
ポセの体は風に吸い込まれるように十秒間の間に消えてしまった。マルローは空のかなたにポセと龍が消えてゆく様子をうなだれて見つめていた。
「やった!ポセイドンに勝った!!これで俺様が晴れて地獄の王だ。」
飛び上がって喜びをあらわにする門番の肩を誰かがトントンとたたく。
「あのー」
「誰だ、あ、あれ、なんでここにいるんだ?今、空の彼方に飛び去ったはずだが。」
「サライトさんに技のお返しするね、エルダー・リターン・リバイア−!!
ザー、シューワー、ズコーン!!!
今度は、ポセの指先から、なんと先程の龍神を口にくわえた巨大な海竜のリタールが現れた。
「こりゃ、たまげた、上には上がいる。かなわんわ。」
「降参します?」
「はいはい、降参します。これまでのご無礼、お許し下さい。今、地獄の門を開けさせますので、お二人ともどうぞこちらの方に。」
門番がそういうと海竜はポセの指先に吸い込まれ姿を消した。

-地獄の入り口-

 20メートルもの高さの大きな門が「ドーン」という音を立てて開いた。
「あれ?ここが入り口?」
なにやら、観光名所のように見物客のような者たちでごったがえしてる。マルローはポセに聞いた。
「あの人達、なんかいろんなカブり物しているけど?」
「いや、あれね、僕も最初変だなって思ったんだよ。地獄の役人さんに聞いたら、あの人達って生きている宇宙人だってさ。」
「う、宇宙人!なんで地球の地獄に来てるの。聞いたことぞ。それに、生きていても肉体のまま来れないはずだよ。」
「いや、それは僕たちと同じで自然とある地点で肉体の細胞レベルまで霊体に同化させているんだ。」
「同化?肉体がバラバラになるのか?今は幽体離脱で私とポセの体は別の所にあるんじゃないの。」
「それは、普通の町の霊能者とかのレべルだよ。マルロー父さんも僕も今は思いの世界に居て異化した肉体を魂で覆っているようなものなんだ。」
「そうか、それはそうとして、宇宙人はなんで来てるんだ?」
「うん、それはね時代が変わってきて、地球になんで地獄があるんだ、当初は楽園建設とかうたって地球にいろんな人間型の異星人が開拓に来たのにこのざまはなんだーということになっていたんだけど。最近になって逆にそれも珍しいからといろんな銀河系から観光客が来るようになったんだって。」
「なんだか訳わからんが、要するに動物園みたいなものか。それで入園料とかあるのか、ポセ。」
「うん、本来のお金という意味から外れるかもしれないけど、たしかソールトという銀河系ルピーで支払ってる。この単位は人徳や善意に発生する念をソールト・メーターというカードのような検知器で万歩計のように溜めていくものらしいんだ。このソールトは、この世の4次元界ではけっして使用されないもので、惑星誕生などの神秘的な仕事などに使用されるんだって。」
「そうか、ソールトでいくら溜まると月のような星の誕生を実現できるんだ。」
「二千億ソルトぐらいかな。百ソルトは人の生命体を一人作る魂エネルギー相当分と言ってたよ。だから、人間一人一人・・・」
ふたりがそうこう話している内に、案内役の役人がひとり来た。
「地球の地獄巡り銀河ツアーにお越しの皆様、この度は、薄汚れたこの堕落した世界に遠方の星よりわざわざお越し頂きありがとうございます。」
「ぷっ、ツアーなのか、これは。」
「皆様に、予めお伝えしておく大切なことが、あります。我がG3銀河系は一万年に一度の割合で、隣のモル−ト宇宙界のS4銀河系と通路がつながることはご承知かと思います。そして、今年はその年にあたり、S4銀河系のリーク星の古代悪魔の勢力がこの地球の地獄に及ぶと思われます。」
「古代悪魔?ポセ、それって、なんだい。」
「もともとこの地球の地獄界を誕生させた張本人で、一億年前に七大天使の一人を誘惑し、堕落させた古い年代のムエルという悪魔だよ。すごく強くて誰も倒したものがいないらしいのだけど、超人類神の力でリーク星に封印されたそうなんだ。たぶん、その説明だと思うよ。」
「ムエル、・・・・。なるほど、不気味な響きだ。」
「皆様におきましては、常に別次元につながる避難口の場所を確認し、リークの古代魔族の存在を今からお渡しするスキャンで察知したら即座に逃げてください。」
宇宙人観光客の護衛にあたっていた、いかにも強そうなファビアスという男が言葉をはさんだ。
「馬鹿野郎、このザルツ星のファビアス様の手にかかりゃ、どんな奴だって退治してくれる。」
「ああ、あなたは、この間のわが銀河系初のデスクローズ格闘大会優勝者ではないですか。」
「そうだ。」
ファビアスは得意気な顔をした。
「おおっ!!」
壮絶なデスクローズの大会を知っている者が驚きの喚声をあげた。
「ファビアスさんが、護衛にあたってくれるなら安心だ。」
「そうですね、わかりました。では、向こうの3番ゲートより、順次お呼びいたしますので、列を乱さずゆっくりとお入り下さい。それから、くれぐれも地獄の霊には関わりを持たないよう。」
「おーい、あっちの霊には、俺たちの姿とか見えるのか。」
 金星から来た極めて地球人に近い宇宙人の若い男が質問した。
「いいえ、鏡ばりのような見えないシステムになってますので、見えません。しかし、こちらも地獄とはいえ、念いの世界でありますので強いメッセージを地獄の修行者に送らないように願います。」
「そうか。なんだ霊の救済のために来たのだが、拍子抜けしてしまうな。」
「それは、有り難うございます。こちらの方に登録頂ければ、認定試験の日程と場所の告知をさせて頂きますので。」
「なんだ、まるで派遣会社の登録だな。」
そばで聞いていたマルローがポツリと話した。
「はい、そちらはマルローさんですね。この地獄といえども秩序の保つには様々な規則が必要なわけです。」

(続く)

(更新日2005.5.1)

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