安田 さん ご依頼のウクレレ製作
お世話になってる安田さんよりウクレレ製作のご依頼がありました。しかも、安田さんの奥さまのご要望もあり、前に長く住んでおられた旧ご自宅の立派な柱でウクレレを作るという初の試みです。とりあえず柱である「杉」の木を見せてもらい、ウクレレに出来るか見たところ、特に、ひび割れやシロアリに食われた状態のところがなく、手でたたいてみると「コンコン」と音がよく跳ね返るので「ウクレレにしてみましょう」ということになりました。家族の思い出の入ったものなので、やや緊張して木の加工手順など計画を立てました。ウクレレは、ソプラノ・パイナップルで、ロングネックにする予定です。![]()
(1)木材の加工


杉の丸太は、長さが1メートルあり、とにかく中の木目の状態をみるため真ん中で縦にノコギリで30分くらいかけて切っていきました(結構体力を使いました)。
木目は縦に真っ直ぐなのでなかなかいい所もありますが、木の直径が大きいものではないので、ウクレレで使える部分は限られてくる感じです。木の香りがとてもいいので、その香りで結構癒されました。ウクレレの材料とするために日頃お世話になっている新木場の「もくもく」に無理にお願いしてネックの部分を1.4cm厚、ウクレレボデイ用に2mm厚に仕上げ加工してもらいました(加工料でマホガニーの板が買えますが)。
(加工後)




ボデイ用は6枚とれましたが使える部分の選択に少し悩みました。
ボデイは他のマホガニーかコアでもよいと聞いていましたが、せっかく木も加工してもらって、木目も綺麗な
所もあるので極力この杉の板を使用することにしました。
(2)ブックマッチ

ブックマッチをするために接着面を完璧なまでに平行になるよう、自作の器具も使用して調整していきます。

左上は、節があるのでバックに、右上はトップに、下の二枚はサイドに使用します。
これでやっと作成のメドが立ちました。
(3)ボデイ型作成、サイドの曲げ


今回のウクレレ用にパイナップル用の桐製の型を作成。パイナップル型は曲げやすいので型がなくても大体うまく作れるのですが、今回は材が杉というウクレレにはあまり使用しない特殊な木なので専用の型を使いました。杉は、マホガニーやコアとは違ってカッターや糸鋸で切るには大変デリケートで扱いが大変な木材という印象を受けました。特に白い部分はキズがつき易い反面、茶色の部分は堅いので、慎重に切る必要がありました。


サイド材を水で濡らした後、ベンデイングマシンの熱で少しづつ曲げていきます。ここは予想よりもうまく曲がりました。
曲げを固定するために板をいれて1日そのままにします。
(4)力木とライニングの接着
マホガニーで力木を作成。ジャック穴も想定して少し加工。
サイド板を型にはめた状態で、力木を接着します。
バック側のサイドを角度をつけるため少し切ります。


ライニング材は「マンゴー」の木を使用。マンゴーの木はコアと似たサスティンの伸びる音の特性があります。
(これは、料理でいうスパイスみたいなものですが)
ライニングの内側の角を紙ヤスリで削り、ラウンド構造になるようにします。音は、一つの空気の流れのように例えることが出来ますのでボデイ内側に角がない方が音には良いと考えられます。
(5)トップ板のインレイ
糸鋸で大きめにトップ、バックのラインを切ります。


サークルカッターでサウンドホールを切ります。インレイラインの溝に従いデザインカッターで少しづつ切ります。
杉材の場合ルーターを使って溝を均一にしようとすると、木目の所で凸凹になるので今回は手作業です。


アバロン貝の青を使用。結構、映える感じでインレイがはまりました。
(6)ボデイの組み立て


トップ板にXブレージングを施します。サウンドホール周りはマンゴー材。ブレージング材は、チーク材です。
接着後はタッピングしながら削ったりして調整していきます。


バックに使うブレージングは、モールド構造になるようわずかに膨らみをつけるためにブレージング材を作成。
横から見ると中心にカーブしているのが分かります。


サイドとバックの接着。ここは、慎重にクランプをします。乾燥後、ピエゾのマイクも装着します。

杉は木目がはっきりしていて縦の力には強いですが横の力には弱いので、ブレージングをサイドと連結して強度を保つ構造にしています。普通のウクレレより、しっかりした構造ですが、たたくととても大きな音が返ってきます。木目も味があって個人的にも1本ほしいと思うようになってきました。
表板を接着します。

組み立て後、カッターやヤスリ等で仕上げます。トップはバックよりやや薄めに仕上げます。
(7)指板の作成


中央のウクレレ専用のマイターBoxを使い、指板のフレットの溝をノコギリで切ります。今回は、マーチンのウクレレにも使用されている少し太めのウクレレ用フレットを使います。5cm幅の黒檀は、今回は5mm厚で少し厚手のものを採用。耐久性を重視した感じにしています。


指板のフレットのバリが引っかからないように、最近入荷したマスターグレードのカーリーコアでバインディングします。半田こてを熱くしてカーブのところを水に塗らしたコアの細板を曲げていきます。ここでは、熱いコテの先で曲げるのではなくコテの根元の温度の比較的低い所で曲げます。


バインディング後に、サイド・ポジション、フレット(1,3,5,7,10,12,15,17)ポジションマークをつけます。
このポジションマークは意外と重要で、演奏には通常かかせないものです。ポジションマークは演奏のためにつけるものと、芸術的な観点でつけるものと大きく2種類ありますが(両方を兼ねるのがベターです)、あまりインレイが派手なものは弾きにくいので派手すぎるのも注意が必要ですね。指板は、特に正確さを必要とされるところなので、もう指板が出来てしまえば後は安心です。
(8)ネック、ヘッド、ナット、ヒールの作成

ネック用の1.4cm厚の杉板の両サイドを糸鋸で切り、ネックガイドに垂直に入るようにします。


ヘッドとネックの切断面を整え、余分な所を糸鋸で切っておきます。ネックを作る時などは、以前に作成しておいたネックの見本を横に置き、寸法、角度等を合わせたりしています。


ネックとヘッドの接着後、指板が水平に接着出来るまで接合部を丁寧に平面ヤスリで整えます。


ナットをコアと黒檀で二つ作成。今回は黒檀の方を選択。ナットを指板に接着。それから、ネックにヒールの原型のブロックを接着します。なお杉板のネックはここまで同じ板から作っています。


じょじょにブロックを削り、ヒールの形にしていきます。ネックのオモテは接着面の木目が面白いです。
(9)ネックと指板の接着、ボデイへの接着
ネックと指板をジョイント14フレットに設定して接着。


なお、指板を接着する前には、ネックがボデイに垂直、中央に立つかどうか仮組立てして予め調整しています。


慎重にネックをボデイに接着。いよいよ、ウクレレとしての形になってきました。
(10)フレットの調整とヘッドのインレイ


コア製のオリジナル・ブリッジ装着後、仮弦を張った後にフレットを揃えるために平面ヤスリをかけて調整。フレットは、削ると金属の黒い粉になるため、ボデイを汚さないようマスキングテープを予め貼り、気をつけます。万が一黒っぽい汚れがボデイに付いたら、ティッシュでサッと軽くはらい、消しゴムできれいにしておきます。
フレット調整後に、ブラックナイロン、クリアナイロン、フロロカーボン弦の3つで試演奏。今回のこの杉のウクレレには、ブラックナイロンの場合、音質はいいのですが音が大きく出すぎる感があります(また、調弦が安定しにくい所もあり)。クリアナイロンですと、弦がやわらかくて弾きやすい所がありますが、音がややしょぼい感があります。一番相性が良かったのはフロロカーボン弦で、調弦もよく安定し、音の質も音量も素晴らしいです。「え、これが杉の木で作ったウクレレ?」という驚きがあります(内部のブレージングにマンゴーを使っているので音のサステインがとても綺麗です)。塗装を加えると多少音が変わる可能性があるので、音に大きく影響がないよう、やや薄塗りで塗装は仕上げる予定です。


ご注文くださった安田さんの奥様が弦楽器の「ビオラ」を弾かれていたという話を以前にお聞きしていたので、ヘッドのインレイはバイオリンやビオラっぽく入れてみました。(つづく)
(11)塗装、仕上げ、乾燥
今回は、ラッカーの下塗り用の塗料で仕上げます。
この塗料はニトロセルロース系ですが、初期の表面の乾きが早いのに完全に乾くのが3時間だという変わった所があります。薄塗りにはいいですが、厚塗りにはあまり向きません。ただし、塗装ムラになりにくいという利点があります。


塗装後、匂いがなくなるまで乾燥させてます。塗装により、インレイに艶が出てきました。
(12)ピックガード装着、そして完成!!
マンゴー材と虎目のメイプル材とでピックガードを作成。メイプルの方を選択。虎目が綺麗に出てます。

楽器木材として考えると杉は、メープルとエゾ松の中間みたいな感じです。加工には神経を使いますが、楽器にしてみると音はとても綺麗にでます。

見た目もモク目が、味わいがありますね。スケールピッチも正確で音質・音量も申し分ありません。

サイドからみた画像。エレガントな感じです。

意外と、ヒールの木目がサイドと合うので製作した方としては気に入ってます。

ネックの部分もネック材の木目を計算して、堅い部分が出るようにしています。裏板は、上手い具合に左右対称になってます。

サイドポジションと、指板のバイデイング。コアのモク目がよく出てます。フレットバリの引っかかり感が皆無で、女性に優しい丁寧な仕上がりになりました。演奏感がとてもいいです。近日、安田さんにお渡しする予定です。

(更新日:2006.2.19.)
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