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※ライブレポートです
草野マサムネ−マ
田村明浩−田
11/16・赤坂BLITZ。「SPITZ JAMBOREE TOUR '98 ”fake fur”」の一環となるこの日は、彼らにとって久々のスタンディング・スペースとなるBLITZライブの2日目。のっけからハイテンションで進むステージから、メンバー自身も実に気持ちよくパフォーマンスしている様子が手にとるように伝わってくる。MCでも、草野マサムネが
マ もう、今日はみんなをキュッ!としたいよ!
と語ったことからも、客席と一体になった最高の一夜だったことが窺える。余談だが、田村明浩(b)が勢い余ってローディーに激突、ベースを壊すハプニングも。その後の会話。
田 草野ぉ、新しいの買ってくれよぉマ いいよぉ
田 みんな聞いたよね!約束だぞぉ
文−松浦清憲
怒濤のツアー中にレコーディングされた『99ep』が年明け元旦に登場!
それはスピッツというバンド、そしてメンバー一人一人の自信と信頼で音に刻んだ、'99年のスピッツの在り方となった。
スピッツの初の3曲入り12センチCDが'99年1月1日にリリースされる。「ハイファイ・ローファイ」「魚」「青春生き残りゲーム」の3曲が収められた作品に付けられたCDタイトルは『99ep』。草野マサムネは
マ '99年の一発目に出るものだからね
と、命名の由来を教えてくれた。
マ 1曲だけをクローズ・アップしたくなかったんですよ。この3曲には同等の力関係を持たせたかったから、1曲だけを選んでそのタイトルに付けたくなかった。それに”ep”って外タレのマキシ・シングルのタイトルに付いてたりするでしょ。単純に、そういうのもカッコイイかな、と(苦笑)
'98年3月に8thアルバム『フェイクファー』をリリース後、5月から全国61本の半年以上に渡るツアーを行なっていた彼ら。今作はそのツアー期間中に
マ ライヴやツアーの勢いをそのまんま持ち込んだレコーディング
になった。
マ だからツアーに参加してくれたクジヒロコさん(キーボード)がレコーディングに参加するのも自然の流れでしたね
”メンバー・プラス・クジヒロコ”。この5人で演奏され、スピッツの4人で完全セルフ・プロデュースされた3曲は、スピッツの持つ個性がそれぞれの曲の中で思う存分に発揮され、個々の作品の位置付けや印象を強く残している。
崎 1曲1曲の色がハッキリ出た。まさに三者三様ですね
と崎山が言うように、1曲目の「ハイファイ・ローファイ」は、すでにフェイク・ファーツアーの後半戦で早くもライヴで演奏していた軽快なロックンロール。2曲目の「魚」はスピッツのあのどこかせつなくて、なつかしい世界観が描かれたミディアム・ナンバー。そして3曲目「青春生き残りゲーム」は、その「魚」と対極に位置するようなスピッツ流のハードロック・サウンドが炸裂。といった具合に、サウンドのアプローチも雰囲気も詞世界も、曲によってガラリと変わっている。
田 新しいことをやうろと思ってたわけじゃないから、今現在の指向がそのまんま出ちゃった。しかも、それがツアー中にレコーディングされた曲だから、ライヴの感覚がそのまま音に出てますね
まだツアー中のレコーディング作業は、彼らに新鮮な感覚を与え、新しい試みも実行させてくれたのだ、という。「曲によってエンジニアを変えたこと」「ツアー中に録ると自分たちがどんな心境になるのかということ」etc…。
田 とにかく考え込まずにラフに、遊んでるような感じでレコーディングしてた3曲だった。録ってみて思ったのは、まだまだやり方の余地がすごくある曲だなって…。そういう感覚って、次に絶対につながっていくものだと思うから、「ハイファイ・ローファイ」をライヴで演っててもすごく楽しいんですテ 余計なもの、無駄のない音だよね
草野は、
マ この3曲はとてもわかりやすい曲が揃った
という。
マ バンドだけでシンプルにまとめられる曲だし、勢いでやれちゃう曲ばかり。それこそツアー中のレコーディングにふさわしい曲っていうのかな。たぶん、ツアーとレコーディングを分けて録っていったら、こういう形にはきっとならなかっただろうな
スタジオに入ったメンバーが、まるで”せーの!”で録ったかのようなその感覚は、確かに音からストレートに伝わる。しかしシンプルな音作りというのは、目指そうとしても実はなかなかできることじゃない。自分たちの姿がそのまま見えてしまう音を、無駄な装飾なしにCDに刻むことは、彼らがスピッツというバンドに対して、また一人一人に対して、自信と信頼がなければ決して音に刻めないもものだ。ただし、彼らにはそんな気負いはないのだろう。それこそ単純にツアー中に生まれた曲をツアーの中のスピッツがレコーディングしただけのことであり、それが彼らのやりたいことのひとつだっただけのことかもしれない。しかし、それこそが”'99年一発目”にふさわしい、'99年のスピッツの在り方なんだと、思う。
文−関根守、松田義人
スピッツライブ 写真から見るカロリーチェック
スピッツの全国コンサートツアーが終わった。スピッツのライヴは、多くのロックバンドの勢い任せのそれではなく、楽曲をきちんと聴かせるしっかりとしたショーのように私たちはいつも感じている。それは、今回のツアーでも全国のリスナーたちに再確認させたことであろう。しかし、ツアーで長いこと地方をまわっていると、メンバー各々の栄養が片寄ってしまうことも避けられない。体は大丈夫か。今回は、そのライブ写真を元にスピッツの各メンバーのカロリーチェックをしたいと思う。健康なスピッツがいつまでもしっかりとしたショーを私たちに観せ続けてくれることを信じて…。
前ページでもお話した通り、スピッツのライブの一番の魅力は、その素晴らしい楽曲をしっかりと体感できる点。しかし、当のメンバーは、長いコンサートツアーの裏側で大変なご苦労があります。一番の心配は、体調面でのこと。これをセーブするには、まず、日々の食生活に気をつけていかなればいけません。では、ここでアドバイスさせていただきたいと思います。
●崎山龍男さんカロリーチェック
この写真では、顔色もよく、ドラムはカロリーを消費しますが、それ以上の栄養とられているように見受けます。なるほど趣味が野球ですか。スポーツマンらしく自己管理をして、健康にも気づかってますね。崎山さんの好きな食べ物に肉とありますが、肉には体の基礎となる筋肉、骨、血などを作るタンパク質、エネルギーを作り出す脂質がたっぷりと含まれています。さらに、タンパク質を効率よく体内で利用するのが十分なビタミンB6を含む物。これを組み合わせていただくと、さらに健康的な体を作ることが出来ます。例えば肉を食べる際には、同時にじゃがいもを採るという具合です。しかし、余分な脂質はコレステロールの原因となりますので気をつけて下さい。
●田村明浩さんのカロリーチェック
LIVE中の写真なので、かなりアドレナリンが分泌されていますね。田村さんの好きな食べ物がカレー全般。カレーだけでなく”全般”とつける点も大変興味深いのですが、そのままでは、体がもちません。是非カレー全般だけでなく、ストレスの抑制に効果的な食べ合わせをお薦めします。ストレスに対抗する効果があるのはビタミンB群(B、B2、B6、B12)。そして、これを分泌するにはビタミンEを採ることが大切です。そして、この写真のような興奮状態から精神を安定するためには、カルシウムとマグネシウムを同時に採っていただきたいものです。海産物や納豆がいいですね。また、写真のようにLIVEなどで腰に負担をかけると腰痛になるおそれがありますので、ビタミンB1、B6、ビタミンCなどを取られることをお勧めします。
●三輪テツヤさんのカロリーチェック
この写真からは、メンバーの中で最も食生活が乱れているであろうことが容易に伺いしることが出来ます。聞くところによると、三輪さんは、以前に栄養失調で倒れたこともあるらしいですが、それをラジオのネタにするなんてもってのほか。原因としてはコーヒー、タバコなどの多用や不規則な生活で摂取エネルギーを減少させていると考えられます。これを改善させるには、しっかり食事を採ったほうがいいでしょう。コーヒーの変わりに、高タンパク、高エネルギーのバナナシェイクで乾きを癒して下さい。バナナは栄養的にも優等生の果物ですし、牛乳もほぼすべての栄養素が含まれています。もし、牛乳を飲むとよくお腹をこわすというのであれば、牛乳に対して、2〜3割のヨーグルトを入れて飲めば、腸の働きもよくなります。また、コーヒー、紅茶などは鉄分の吸収を妨げるので栄養を採ってないと貧血の原因にもなります。ロッカーが貧血というのは、ROCKの辞書には載っていません。三輪さんのルックスはROCKそのものなのですから、体の方もROCKというふうに改善していただきたいものです。貧血防止にはレバー、ほうれん草などが最適です。また、食欲がわかない理由は、食べる環境というのも関係しています。食欲を促す環境。食卓デザインなど、自分なりにアレンジしてみてはどうでしょうか? 三輪さんの趣味は小物、おもちゃ集めと聞いています。自分の気に入った小物で食卓を彩るというのも、健康でいられることの要因の一つと言えましょう。また、終始サングラスをかけていらっしゃいますが、目がお疲れになるようでしたらブルーベリーを摂取されることをお勧めします。いずれにしても、三輪さんは「これとこれを採れば」という問題ではなく、とにかく規則正しく食事を採るという点に気を使って下さい。まずは”食卓につく”という第一歩からはじめられることをお勧めいたします。
●草野マサムネさんのカロリーチェック
草野さんの写真からは、健康そうでなんともないように思えます。しかし、ボーカルですから、「プレッシャー」という目に見えないものが肩にのしかかり、頭を使われることが多いと察します。そんな頭を使う草野さんにお勧めしたいのが、魚です。特に、頭の活性化を助け、脳に良いとされるDHAが多く入っている背の青い魚。”海の米”と言われるイワシ、アジ、サンマなどがいいですね。これらは、カルシウムが採りやすく、集中力もつきます。草野さんは、好きな食べ物に貝類を挙げていますが、貝も栄養があります。ここで貝にまつわる、ちょっといい話。以前、漫画家の松本零士さんが生ガキが好きでよく食べるが、その度にあたる、とおっしゃってました。そこで、わかったことは、生ガキを食べたらすぐに歯を磨くということ。そうすればあたりません。人間の進歩が伝わってくる、重みのある話しですね。また、赤貝、はまぐり、かに、えびなどは生で食べるとアノイリナーゼという酵素がビタミンB1を破壊するので、食べすぎには注意して下さい。最後に、スピッツの詞は恋愛のことが多いので、恋にもってこいの食べ物についてお話ししましょう。恋は、性ホルモンを活発に分泌させます。性ホルモンの分泌は視床下部といわれる中枢と脳下垂体からの指令によって、盛んになる仕組になっています。そのの「恋の中枢」というべき視床下部に効果のあるのがビタミンE。また、恋をするとビタミンCも消費しますので、「恋の処方箋」というべき栄養素はビタミンEとCです。ビタミンCは、イチゴ、みかんなど。ビタミンEは、アーモンド、ピーナッツなどにも含まれます。それらをつまみながら、恋を語るのも良いかもしれませんね。
ライブレポート
文−さかぐちひろこ
〜そして僕らの旅は続く。
1988.8.9 NHKホール
彼らの曲、1曲1曲の中に横たわるのは、その曲と出会ったあの日の思い出、そして痛み…。
「神様にお前は歌え、と言われて生まれてきたのです」(マサムネ)
スピッツのライブに行くのは本当に久し振りだ。たぶん3年ぶりぐらいじゃないだろうか。別にその間に彼らのサウンドが嫌いになったとか、ブレイクしたからどうでも良くなったとか、そんな理由ではなくてもっと複雑な感情。彼らのサウンドはまるで日記帳を読み返すようなものだから。誰の目にも触れない心の中なんて、後で読んでも恥ずかしくて死んだ方がましなぐらいだと思う。スピッツの曲を、デビューアルバムから、最新作までメドレーで演奏された日にゃあ、きっと逃げ出してしまいたくなるだろう。それぐらい、彼らの曲の1つずつには、その曲を聴いていた頃のいろんな思い出や痛みや、温もりが横たわっているのだ。聴く人が100万人いれば、100万通りのキラキラした風景がある。スピッツはとはそういうバンドだ。誰の心の中にもそっと忍び込んできて、いつの間にか淡い残像を置いていってしまう。こんなバンド、そうそういるもんじゃない。
客電が落ち、ステージに吊るされた丸いレトロな電灯が、市松模様の床を照らす。ワッという歓声が上がる中、メンバーの姿が一斉にライトに浮かびあがった。ライブが持つ独特の空気感の中で次々と演奏が始まった。懐かしいナンバー『ミーコとギター』がゆったりと太いグルーヴに包まれて蘇る。どの曲の音も骨っぽく、生命力に満ちている。この感じ…『青い車』を初めて聴いた時、それまでスピッツにはいつもどこかくすんだ風景が似合っていた。現実感があるようでない、不思議に居心地のいい世界。だけど”僕の車で海へ行こう/もう何も迷わないさ”と歌う草野マサムネを見た時、一斉にその風景は原色にぬりかえられた気がしたのだ。真っ青な空と海と、風と一緒に流れていく”いま”の君とボク一過去も未来も、現実も非現実の世界すら走っていけるバンドへとスピッツは変わった。『涙がキラリ☆』や『運命の人』で歌われる、宇宙や生命の神秘のことさえ、とても近しい存在として私たちの胸を打つ。強く打つ。
日記なんかじゃない。もっと、もっと、スピッツの音楽は誰かの未来を繋げる大きなエネルギーを持って前に進んでいる。それはすごくロマンティックで、とてつもなく強い。反対にいつも変わらないたたずまいなのは、結成から11年たってもオットリと柔らかなメンバーの姿。彼らがそこにいる、それだけでなんだかホッとする。
マ 神様にお前は歌え、と言われて生まれてきたのです。だから声が出なくらるまで歌います
草野マサムネが言ったこの言葉が、いつまでも耳に温かかった。しっとりと降る雨さえ優しく感じられるほど。
文−浜田次郎
スピッツの静と動
現在全国ツアー中のスピッツから、うれしい新曲が届いた。7月7日リリース(この日にアイテムを出すのは、もう恒例だね)される「楓/スピカ」という両A面シングル。今回はこの2曲の魅力を独特の視点か掘り下げてみました。
5月にスタートしたコンサート・ツアーも順調に進んでいるようすのスピッツ。梅雨空の下、きょうはどこの街で演奏しているのかなあ…。そんなことをぼんやり思っていたら、目の覚めるようなニュー・シングルのプレゼントが届いた。ひとつはアルバム『fake fur』の中でもずっしりと深い余韻を残す、久々の大バラード曲「楓」。そして、もうひとつは強力な新曲・夏の予感で胸がいっぱいになる爽快なロックナンバー「スピカ」。現在のスピッツの絶好調ぶりが大きな波となって押し寄せてくる!そんなこの2曲をとことん味わい尽くしたい。そんなわけで、今月はもっともっとスピッツの歌を楽しむためのヒントをひとつずつ考えてみました。さて。みんなの心にはこの2曲、今この瞬間はどんなふうに映っているのだろうか?
1.「楓」の宿題
マ メロディができたときに秋の曲だと思った
とインタビューではまるで他人事のように話していたマサムネ君。…秋風が吹いてかさかさと枯れ葉の音がする道をマフラーを巻いてひとり歩いている。僕はこの歌を聞いているとどうしてもそんな 絵が思い浮かんでしまう。ひとりぼっち、そして少し陰った秋の黄色い午後の光線。そして、もっと想像力を膨らませると、”恋人はもうこの世にはいない”。そんなドラマチックなシチュエーションを思ってしまう。そういえばこの前は、こんなことも話していたっけ。
マ (心にしみこむような、伝わりやすい詞を書くために)悲しそうなビデオを借りてきてみることにしたんです
そのときに見たという、原題(『UNTAMED HEART』)とかわからないと言っていたビデオ。探してみたら、それは、クリスチャン・スレイター&マリサ・トメイ主演のラブストーリー『忘れられない人』でした(物語──生まれつき心臓に欠陥をもち孤児院で育ったナイーブな青年アダムは、他人とうまくつきあうことができず言葉少なく犬と静かに暮している。そんな彼とある事件をきっかけに心が通いだし、相手を思いやる心やさしい真実の愛にめぐりあうキャロライン。少しずつ少しずつ近づいていくふたりの心。しかし、そんな幸せな時間を過ごすふたりに突然やってくる永遠の別れ…)。こまやかなふたりの心の触れ合いをていねいに描いたドラマで、これが「楓」の詞の世界に一部影響を与えているとすれば、残された者の心に訪れるなんともいえない静かなせつなさ、だろうか。アダムの過酷なまでの運命ゆえにそうなってしまったナイーブな心は、親を恋しがる小犬の鳴き声みたいに、見る者の心からいつまでも消えない。これってどこかスピッツの歌の中でときどき出会う、あの”やるせない気持ち”に似ている気がする。「楓」ファンはぜひ、この『忘れられない人』体験を試してみてほしい。「楓」が、マサムネ君の作る歌がなぜこんなにせつないのか、その秘密が少しわかったような、そんな気持ちになれるから。
2.スピッツ、夏の歌。
「青い車」「涙がキラリ☆」「渚」など、夏が舞台となれば、いつになく恋に積極的な歌が多いスピッツ。そう、南風に乗って恋に飛び込んでいく、自ら落ちていくようなあの感じ。そして、新曲「スピカ」は、そこに開き直ったような複雑なときめきがプラスされて、もう”恋する気持ちのツボ”をぐいぐい押してくる。すでに木村佳乃が「おーい、夏ですよー」とハワイ旅行をおねだりしまくるCF(JALリゾッチャキャンペーン)がオンエアされているから、耳にした人も多いはず。”言葉より触れ合い求めて突き進む”やんちゃな女の子を、しっかり見つめて愛そうとする男の子は、まぶしい夏の光と熱の中、幸福なのになぜかふとせつなくなる…。まさにマサムネ・ワールドの真骨頂なのだ。ところで、タイトルの”スピカ”とは、乙女座の持つ麦の穂に位置する一等星の名前で、日本では明るい星が少ない春の夜空でひときわ目立って輝いている星(7月くらいまでは見える)。でも星占いで乙女座は夏生まれの人の星座だから、その意味でつけられたのかもしれない(次の機会に確認したいと思う)。それから、神話からインスパイアされて”スピカ”には”結ばれる”というイメージがあり、某有名ブライダル・デザイナーのブランド名なんかに使われていたりもする(これはあんまり関係ないかもしれないなー)。それにしても、この歌には衝撃的にいいフレーズが続々登場する。”粉のように飛び出すせつないときめき”は、息が詰まりそうに切実なせつなさが伝わってくるし(でもそこになんだかユーモアも感じられたりもして)、”幸せは途切れながらも続くのです”は恋する気持ちの揺れ幅をリアルにせつなくそれでいてなんだかうれしくなるような言葉で表現している(個人的に激しく感動してしまった)。この感じ、どこかで最近感じたなと思いかえしてみると、そう、『fake fur』の中に出てくる男の子の気持ちと同じなのだ。失うことをどこかいつも恐れているような、幸せの絶頂にあってもどこかそれを疑ってしまうような。むくわれないことがいつもすべての前提としてあるような。そしてそれは続いていく…。
もしかしたら、「スピカ」は、そんな男の子へ、そして自分(マサムネ君)へのプレゼントなのかもしれない。そんなことを考えていたら胸がきゅんとなって、この歌がもっと好きになってしまった!
「偉大な獣」の男たち4人がそこにいた。5月12日
ギャーン! どすどす、ゴガガガ…凄いすごいスピッツ、男らしいぞ、ムキムキだぞ。なんてったってマサムネ君、1曲目から延々7曲目までフライングV(『フェイクファー』のレコーディング時にテツヤ君に借りて弾いて、男のロック魂が燃え上がってしまったという、ヘビメタorハード・ロック系バリバリのV字型したエレキです)ガシガシ弾きっぱなし、崎ちゃん髪振り乱してドラムぶっ叩きっぱなしなんだから…初冬まで続くスピッツ'98年のツアー、4本目・埼玉/大宮ソニックシティは本当、びっくりするやら耳鳴りするやら、男の子のコアなロック・ファン達さえもここに連れてきたくなるわ…とにかく、今までの彼らのライヴとはちょっと、いや、変声期を過ぎた男の子に久し振りに会って、ぎょっとしたくらいに印象の変化があるライヴなのでした。先に記したマサムネ君や崎ちゃんのゴリゴリ加減、それから相変わらず動きまくりの田村君のベースはもちろんとしても、いやはや今回のテツヤ君のギターときたら! あのね、『フェイクファー』収録曲は当然だとしても、それ以外の昔っからの曲達まで、ごわっ、ぎしっ、ぎゃーん!てな印象に進化してる感じだったのです。ま、実際観てみれば分かりますけど、ほんと。それから今回のライヴは選曲がすばらしくて、ヤマがいくつもあって、なんだかアッという間に2時間以上が過ぎてるって感じ(普通だったらこの曲で終了かな?って曲の後にも、まだ続きがある!)だし、いや、本当にお楽しみに!
P.S.7月7日には「楓」が、未発表の新曲「スピカ」とカップリングでシングル・カットされますよん。
文−浜田次郎
SPITZ ついにスタート ツアー大予想
さて、いよいよ始まるスピッツの新しいツアー。
その名も、SPITZ JAMBOREE TOUR '98 ”fake fur”。
ニュー・アルバム『フェイクファー』を引っさげて、5月7日からくまなく全国を回る。
今回は特別につあーに関するささやかなメンバー・ミーティングを。
演奏するのが楽しくてしようがない、そんな4人の表情が思い浮かんでくる
なんだか、いい感じ。今スピッツの4人は、ふんわり自由に春の空気を楽しんでいる。アルバム『フェイクファー』のセルフ・プロデュース体験がくれたたくさんのヒント。4人の上に降ってきたそれをひとつずつ、しっかりつかまえて、今次のステップ、ライブ・ツアーについて話し始めたところ…。
衣装はロック!?
テ まず、今までにはなかったくらい、衣装についてはいろんな意見が飛び交ってます、はいマ ロックなものを着ようってことで。革ジャン革パン、サングラス! でも、夏だからなー
テ んじゃあ、ジーンズとTシャツっていう王道路線。似合えばいいけど。(考え込むポーズ)
マ 前そんなのなかったっけ?
一同 …あったような気がする。(ボソボソ)
マ あれ、結局、ベルボトムと絞り染めみたいなのになってた。(笑)
テ 夢としては、マイケル・シェンカーの素肌に革ジャンにスリムのジーンズ!
マ ピチピチ! ギターも凝りたい。フライングV買っちゃおうかな
テ そういう意味では、中学生が初めてライブをやるみたいな気分なんだよねー
田 学祭みたいなー
マ でも今の中高生とかは、ロックとか言って盛り上がったりすることはないと思うんだけど、オレらまだそういう世代なんだな
テ 気持ちはロックなんです
田 でも、そういう衣装を着ても、鏡を見て愕然とすることになるのでは
一同 …。(無言)
マ 結局、最終的にはー、自然体でいくと思うんですけど。(笑)でも、自然体といっても、着るものとかギターとかで気分って全然変わるから
テ ただ、戦闘服というんじゃない意味で着たいっていうのはある。今回は特に着ることによって、気持ちが引き締まるようなものを着たいからさ
マ たとえジーンズとTシャツであっても、バンドにとっては晴れ着だから
テ 今までは気持ち的に、ふだんもステージも同じような服でやりたい気持ちが強かったけど
マ 今度も、実際に見た人は、”あんまりふだんと変わってないじゃん”って思うかもしれないけど、気持ち的には違うよね
《注・会話の間に意味不明な内容がかなり飛び交ってましたが(ふだんのトーク←ン三輪) あまりに意味不明な部分はカットしてお送りしております》
と、いきなり衣装に関する話から始まってしまいました。が、5月7日の府中の森芸術劇場からスタートするSPITZ JAMBOREE TOUR '98 ”fake fur”について、現段階ではまだまだ未決定の事項がかなり多い。とはいえ、ここに表れているよう彼らの気持ちは言葉には収まりきれないほどに意欲満々。そしてなによりもその気持ちはかなり初々しい! やりたいことが後から後から溢れだしてきて…。このうれしい感じ、はたしてどんなステージとなって目の前に登場することになるのだろう。4人の話は、さらに続く──。
キーボードが替わる
崎 今回は60本くらいだよね、前回より少しだけ少ないテ そうだね、それに年内に終わるからちょっと感じが違うかもしれない
田 今回まず前回と違うのが、キーボードの明石さんに替わって新しい人が来るってことかな
テ 小室哲哉になります
田 …久慈洋子(くじひろこ)さん
テ マサムネの上をハモってもらうとなると、どうしても女性ということになるんだよね
マ 最初は、男性のキーボードと女性のコーラスの2人を加えようと考えていたんですけど、両方できる方がいたので。あと、明石さんに不満があったわけじゃなくて、新たなる旅立ちという感じを打ち出したいということで
崎 レコーディングのスタッフも替わったし、ツアーのスタッフも少し替わったりもしたし
テ 制作発表を明日、赤プリの鳳凰の間で。(真顔)
田 解散しますって。(笑)
テ みんな泣いちゃう。(真顔)
一同 …
くだけたライブをやりたい
テ 今回は、いろんなことについて、もっともっとメンバーの意見を取り入れていきたいっていうのはあるよねマ うんうん。あと、毎回くだけたライブをやりたいって言ってるんだけど、結局今までくだけられなくて。体調を崩したりするとがんばらなきゃってシリアスになったところもあって。今回は夏っていうのもあるから、健康状態は冬にやるよりもベターでいけるんじゃないかと思うんだけど。ライブの途中で予定になかったようなこともいきなりやりだしたり、とそういうこともできるくらい自由なライブにしたいですね
田 草野が出てこないとか、歩いて歌いながら出てくるとか。(笑)
マ オレ、夢見たんだよね。ライブで声が出なくて、そしたら舞台監督が「じゃあ、メンバー3人とキーボードでやろう」って言いだして、オレはそでで見てるの。そんな不条理なライブの夢はよく見る
田 ツアーの前半と後半の内容が(以前よりも)もっと変わっちゃってもいいかな、と思う。ずっと同じじゃなくてもいいような気がする
崎 もう個人的にはアグレッシブなライブをやるってことしかないです。目標として
マ やる気満々。アーンド自由に!
テ 古い曲を今の気持ちのまんまで演奏するのって、どんなふうになるのか、すごく楽しみだよね
一同 うんうん
田 今までは、前の曲をやるときに”前のままで”って流れでやっちゃってきたところが多かったけど、今回はそういうのを断ち切って
マ がらっとアレンジが変わるってことじゃないんだけど。「ロビンソン」とかにしても、CDの感じをライブで出し切れてないような気がするんですよ、音のテンションみたいなの
--今ならできる?
マ できますな!田 こないだ、新しいキーボードの人と試しでやったら、何も考えないでできて、とても気持ちよくて、今回なんだかすごくうまくいきそうな気がしたんだよね
マ あっそれから。前回釧路に前のりしたときに行った飲み屋のおばちゃんに「また来れるようにがんばってね」って言われて…
一同 (笑)
マ 前回は、本当にいろんな街で出会いがたくさんあったから。今回のそういうの、楽しみだなあ
と、その日の話はここでおしまい。その後、着々とツアーに関するあらゆる事項が決定し、リハーサルも十分にこなして、今ごろは調整時期に入っていることだろう。まだその内容をほんの少しも見ることはできないけれど、なんだか、演奏するのが楽しくてしようがない、そんな4人の表情が思い浮かぶ。前回のツアーがスタートした最初のころは、その動きの重さや表情から、プレッシャーがのしかかっているのを感じないではいられなかった。なにしろものすごい熱狂と期待の嵐の中で行なわれた、初めての超ロングツアーだったのだから…。
また、今回はうれしいニュースがある。8月29日(夏休みの終わりっていうのがいい!)に日比谷野外音楽堂で、また11月15・16日には赤坂BLITZでのステージが企画されているということ。ぐっと間近で、子供のようにわくわくしている今の彼らに会えるなんて。ああ、なんて待ち遠しいのだろう!
文−平山雄一
草野マサムネ−マ
三輪テツヤ−テ
田村明浩−田
崎山龍男−崎
セルフ・プロデュースで見せた新しい方向性
カーネーションの棚谷祐一をコ・プロデューサーに迎え、昨年の長期ツアーで得た手応えと自信を原動力に、セルフ・プロデュースに挑んだスピッツ。
ライブ感を重視した今作からは、バンドとしての気持ち良さや楽しさを最大の武器に、新天地を目指して新しく歩き始めたスピッツの決意が響いてくる。
『フェイクファー』は端正なアルバムだ。その整い方は今までのスピッツとは違う。名プロデューサー・笹路正徳の手腕によって磨かれた音やリズムで構築されたスピッツの世界は、ここにはない。昨年リリースされたシングル「運命の人」からプロデュースはカーネーションの棚谷祐一にチェンジし、さらに本作ではスピッツのセルフ・プロデュースの色彩が強くなっている。そのことによって、笹路&スピッツの音世界と比べて、より”流れ”というものが重視されるようになった。細かくきちんとした整い方ではなく、メンバー4人の息が整っている感じ。リズムが少々ヨレたりしてはいるが、全体にはバンドがしっかり曲そのものを把握して製作している。『ハチミツ』で頂点を極め、『インディゴ地平線』でさらにスピッツを押し上げた路線から一時離れて、彼らはまた自分たちの新たな原点を模索しているように見える。それにしても驚くのは、模索しつつスピッツはタイトル曲「フェイクファー」で新しい方向の端緒をすでに掴んでいる点だ。
--棚谷さんと一緒に何か新しいものを探しに出かけたように聴こえる。
マ 今回は3回に分けてレコーディングしました。1回目で「運命の人」のほかに何曲か録って、1曲録っていくごとに”自分はどうしたらいいのか”って考えていたからだと思うんだけど、そのセクションの終わり頃はなんとなくこれからの自分たちが見えかけていたテ その時に「運命の人」はアルバム・バージョンで録り直そうと思った。でもそれは2回目じゃなくて、3回目のセクションでやろうと
崎 少し時間をあけて
--どうして録り直そうと?
マ シングルの「運命の人」を録った後、自分たちが以前はいかに笹路さんに頼り切ってたかっていうのがわかってきて。レコーディングに対する取り組み方が、もっと深くなってきましたね。たとえば映画でいうと、僕が脚本書いて、笹路正徳っていう監督のもとで映画を作ってもらうようなシステムだったと思うんですけど、今回はメンバー全員で最後まで制作していく姿勢を固めた
--前回の長いツアーの影響かな?
マ あれで自信もついたし、レコーディングの時からライブのことをより考えるようになりましたね。今回はできるだけ一発録りに近い形で録っている。俺のギターも歌も、できるだけ一緒に録っちゃって田 前回のツアー中に回してたマルチを聴くと、ライブでは草野がリズム・ギターを弾いて、テツヤはダビング部分を弾いてる。それを冷静に聴くと、CDは全部テツヤが弾いているんだけど、ライブのほうがいい部分があって。今回、実際にスタジオで4人一緒にやってみて、単純に盛り上がるんですよ
テ ギター・ソロも一緒に録れるし
マ みんなで気分よく録っちゃえば、それでOKっていう感覚で。気楽にやらないとそういう気分って音に出てしまうし。無垢なリスナーほど、それを敏感に感じとるだろうなって思うし。なんていうのかな、「このフレーズはなんとかの影響ですね?」とかいう能書きリスナーは、わりとそこに気づかない。ま、どっちかっていうと俺も能書きリスナーなんだけど(笑)。だけど、なけなしの小遣いでCDを買ってくれた中学生くらいの子っていうのは、細かいことはわからなくても核心の部分がわかっちゃう人がいる。「今回はちょっとブルー入ってますね」とか、手紙に書いてくる。遠回しな言い方で(笑)。少々演奏がヨレたりズレたりしてても、気分よくやってる演奏をみんなに聴いてほしいと思って
崎 スタジオで自分の意見をちゃんと言うっていうことを今回やらなくちゃいけないと思った。笹路さんは俺らが努力する前にアイデアを出してくれちゃうから、俺らが怠けちゃう部分があったんだよね
マ 引っ込み思案な性格が災いしてたところがある、俺らは(笑)
田 で、何をしてもいいんだっていうことを今回教わって(笑)
テ それを実践した(笑)
--「楓」っていう曲ではペダル・スチール・ギターを入れたり。
テ そうそう。あれは最初はストリングスを入れようと思ってたマ でもストリングスを入れるとX JAPANみたいになっちゃう。ちょうどスタジオでXの解散の番組をやってて
--X、いいじゃない。
マ そうなんですよ。Xのストリングスは確固たるスタイルがあるから、マネしたみたいになっちゃう。X、恐るべし!
--『フェイクファー』というタイトルは?
マ 今までのアルバム・タイトルは『空の飛び方』とか『インディゴ地平線』とか、ワーッと開けるイメージだった。『ハチミツ』にしても、ポジティブて。今回はポジでもネガでもないような言葉を。人によってはかわいいタイトルと思うかもしれない
--華原朋ちゃんがもし『フェイクファー』ってアルバム出したら、意味が全然違う。
マ (笑)単純に着るにはダウン・ジャケットのほうがあったかいかもしれないけど、フェイクファーのジャケット着るほうがあったかい気分になるというか
--まさかフェイクファーっていう毛皮がはえてる動物とかいたりして。
マ いい読みですね、それ。実はいるんです。そういう発想が次のツアーにからんできます。それはお楽しみということで
順調な過渡期を示した作品
スピッツのメロディと詞の骨格は、そんなに大きくは変わっていない。が、演奏の表情が大きく変化した。自宅録音のような味わいの@から、ガツンとした手応えのAへ行くあたりにその変化が見てとれる。どんな人が聴いても流麗なサウンドから、とても私的なサウンドへ。私的というよりは、それがセルフ・プロデュースの意味そのものだ。一昨年から昨年にかけての長期ツアーで得た自信は、そのままライブに近いレコーディング、具体的に言えばライブ同様、草野がスタジオでリズム・ギターを弾くというやり方に変わった。そのため、全員がとても伸び伸びとプレイしている。もちろん、初期にあったイナタさが戻ってきてはいるが、着実に積み重ねた経験によってそれがある種の男くささになっているのがうれしい。「集大成的なアルバムではなく、続編があります」と語る草野の言葉どおり、順調な過渡期を示している。それだけに今しかない貴重なトラックが数多く収められている。
文−HIROSHI AGATA
草野マサムネ−マ
三輪テツヤ−テ
田村明浩−田
崎山龍男−崎
核になっているのは草野が書いてくるメロディで、それに俺らが各アルバムごとに感じて演奏しているから、そういう意味では変わっていないですよね、核にあるものは。
だからやり方を変えても、この4人でやっていく限りは変わらないかもしれない。
長年の付き合いだったプロデューサーの笹路正徳氏と別れ、コ・プロデュースにカーネーションの棚谷祐一氏を迎えたバンド・プロデュースの新作『フェイクファー』を完成させたスピッツ。そこには手探り状態の中から新たに発見したバンドの進路も見受けられ、楽曲のみのヒットに縛られない本当の意味での彼らの作業の成果が収められている。世間的な認知度は言うまでもないスピッツだが、本誌では初のインタビューということもあり、バンドとしての彼らにも焦点を当てつつ話を聞いてみた。そこには独裁的なリーダー論とも、ただの仲良しバンド論とも違う現在のバンドの姿があった。
--アルバムの制作はいつから始まったのですか。
マ (去年の)9月の終わりぐらいかな。(詞曲を)作ったのもその頃からです。でもアイデアはずっとためてあって、それをレコーディング前にまとめるという形なんで
--その作業は早くできるのですか。
マ そうですね。1日出来て3曲っていうか。結局MTRの作業なんですけど、それはゼロから作るのではなくて、こういう曲をやりたいなっていうアイデアはあるから。それをMTRで作ってバンドでアレンジしていくんです
--バンドのアレンジはスタジオでみんなでやるのですか。
テ うん。だからもう話聞いたりするよりは、まず音だしてやっていこうっていうのが結成のときからある。かるい構成決めたらまずリズム決めて、何回かやるうちにだんだん固まってくる崎 で、お互いの今のフレーズよかったから、それにしようよなんてディスカッションしながらやってる
--自分以外のパートに関してもいろいろな意見交換がある?
田 昔はなかったけどね崎 今回の「センチメンタル」とかはデモをスタジオで作って、そこでもそういう作業をして録ったりしてた。セッションっぽく
--ちょうど今回からプロデューサーの笹路さんがいなくなって、そういうやり方も変わったんですか。
マ それはすごいあります。笹路さんは全体を客観的に見てプロデュースしてましたが、今回はバンドの判断で何でもやっていったので。最初はすごい大変だったんですけど、責任もあるなって。でもまあスタジオ・ライヴをそのまま録ったりとか、今までやらなかったことを試したりも出来たと思う
--今までは音がすごく整理されてた印象がありますが、今回はバンド色がより強くなっていますね。
テ 最初はどうやっていいかわからず試行錯誤してたんですけど田 今回は3回に分けてレコーディングしたんですけど、最初は煮詰まってどうしたらいいのかなと、スタジオが暗い雰囲気に包まれた(笑)。でも、これじゃいかんと思って棚谷さんやみんなも含めて飲みに行ったりして、そういうのがあって2回目のセッションではだいぶ何がいいか悪いか言えるようになったんで、明るい雰囲気になってきた
テ 前はライヴとCDは別と思ってたけど、今はライヴとCDが近くなってきたんですよ。そういうのは会話で交わしたわけじゃないけど、自信にも繋がっていって。だからリズム録りのとき一発で録って、歌もギターも一緒に録ったのもある。緻密に作るよりは全体を聴いてみて、それがよければOKみたいな大きなノリで
--棚谷さんとはどんな関わり方だったんですか。
マ 最初は笹路さん的な関わりを求めてたんですけど、やっている間にバンドの一員のような形で加わってもらって。レコーディングのときも、キーボードも出来るだけ一緒にやってもらった田 音楽的にもユーモアのある人で、ひねくれたポップ感をうまくミックスしてくれた。俺たちは何も考えないとストレートにいきがちなんで、うまくいった気がする
--ギターが2人になったことについてはどうですか。
テ 単純に言うと、すごい楽になった。ダビング作業は1人の作業になってたから、いろいろ悩んじゃってたけど、もうひとりギターがいるとすごい刺激もあるし。それにのってこっちものれたりする。だからバンドとしてというところが、音にもプレイにも出ていると思うんですマ 最初はオレのギターでいいのかなと思ったけど、やってるうちにアラがあるのも味だなって自己弁護出来るようになって(笑)。でも一緒に演奏してるってのはでかいですよ。ダビングとかじゃなくてる少々リズムがよれてても、やっぱり一緒に演奏してるなというのがわかるんですよ
テ 俺は基本的にはライヴでも使っているギブソンのレスポールがほとんどです。あとはエピフォンのカジノを少しだけ。前はリッケンとか使ったけど、今回はあまり細かいことは考えなかったんですね。マサムネはアコギ弾いたり、俺が買ってきたフライングVとかも弾いてたけど
マ フライングVを持ってる!っていう気分で音も変わるんですよ(笑)。すごいハイテクなギターとか持っても、音はいいかも知れないけど、気分は盛り上がらないんですね。あとはジャガーも使った。アコギはギブソン(J−50)だった。アンプはレイニー
テ 俺はアンプは結構変えてた。カラハムのやつで最初に試作で作ったものと、そのあとに出たヴァージョンの2台。あとレイニーとVOXも使った。VOXは昔のやつ。あとマーシャルと(フェンダー)ベースマンも使った。あとギブソン系の小さいトレモロ付いたやつも。だからギターは変えてないけど、アンプは結構変えた。ギターはずっと弾き慣れているものがいいんですね、どっちかというと
--ベースばとうですか。
田 ベースはジャズベースとプレベと、あとベースVI。「冷たい頬」でベースVIでソロをとっているんです。あとアンプはアンペグのB−15っていう昔のやつです
--ドラム関係も教えてください。
崎 僕は基本的にソナーのシグネイチャーのセットを使ってる。最初のセッションの何曲かはDWも使いましたけど。シンバルはパイステです。スネアはラディックのスティールのものがメインで、6 1/2”と5”の2種類を選んで使いました
--出来た音を聴いてみての感想はどうですか。
マ 最初に「運命の人」のシングルを録ったんですけど、そのときに音をちょっと考えようって話になって。前は笹路さんにそのへんも任せっきりのところもあったんだけど、結構それぞれの音を聴いて。でも単品でいい音でも混じるとよくない場合があって、そのへんはすごく痛感した。単品でイマイチだねっていっても、混じるとある音域がすごくかっこよく聴こえることもある。だから音作りはみんなで真面目にやったんで(笑)、今までの中では、一番こうしたいという意志の出たものになったと思います
--思い描いたものに近いと。
マ まだまだいけると思うけど、その第一歩っていうか。以前は自分たちのプレイとか音作りより、使っている楽器とかミックスで音が変わると思ってたけど、それだと思うようには変わらなくて、結局始めの音作りやプレイしているときの気分のほうが大事だと思ったテ 今回こういうふうな形で、こういうやり方をすればいいんだという答えも出た
田 例えばボンゾのような音が欲しいと思って後から変えても、もう最初からそうしないとその音は録れない。迫力のある音で録りたいなら、迫力のある演奏をしないとやっぱり録れない
崎 やっぱり飯食った後と前では全然音が違うんですよ(笑)。昼と夜でも全然違うし
--楽曲的には今回のアルバムでガラッと方向が変わったという印象は受けなかったんですが。
マ もう8枚もアルバム出しているから、これは目新しいと思っても前に一回やったりしているんですよ(笑)。忘れているだけで。そういうのもあるから、あんまり新しいことやっているっていう気持ちはないけど、やっぱり出来たものは今までと違うものだとは思ってます田 でも核になるのは草野が書いてくるメロディで、それに俺らが各アルバムごとに感じて演奏しているから、そういう意味では変わっていないですよね、核にあるものは。だからやり方を変えても、この4人でやっていく限りは変わらないかもしれない
--曲調が変わるとバンドが変わってしまうような人達もいるけど、草野さんの書いたメロディがあれば曲調はあまり関係ない?
田 アマチュアの頃にビート・パンクで跳ねながらやっていた曲でも、草野の書いたメロディがあるから根本的には変わっていないと思うマ 演奏者として不器用ながらも頑固な性格だから。楽曲のタイプが変わるとバンドの感じも変わっちゃうのは、器用な人だと思う。演奏のモードも変えられるようなるでもスピッツはそれは出来ないと思うんで、例えばジャズっぽい曲を演奏しようとしても、ああ、スピッツだなと思われちゃう。それは悪いことでもあるかもしれないけど、今のところはそれが持ち味だと思っています
田 そういうのが嫌だったらバンドを解散するよね
--バンドというスタイルについてはどんな考えを?
マ 気持ち的な問題なんですけど、バンドでやるとお互いを盛り上げるんで、ライヴでもレコーディングでもいい演奏になると思ってる。俺らにはこのやり方が一番合っていると思うし、10年もやっているんで音楽を作る上で余計なことを考えなくてよくなってると思う。曲作ったときに期待以上のこともやってくれるし、知らない人とやったら違うんだよなっていうのがすごいあると思う田 音楽以外のことも俺ら大事だったりするんです。人間関係とか。俺ら分かり合うのが遅いんだけど、それ故に浸み渡っている気がする
マ でも必要以上に仲良しで、お互いの家に泊まりに行ったりとかいう感じではないから。馴れ合いみたいになるわけではないし
田 4人でバンドを結成したけど、その距離がずっと変わらないから、他のバンドからみたら仲がいいと言われるのかも知れないけど
マ バンド組むために集まった人間だから、みんな歳は一緒だけど大親友がバンド組んだわけじゃない
文−芥川和久
草野マサムネ−マ
アンダーグラウンドへの憧憬と、大衆歌謡であることの意識
およそロックバンドらしからぬ優等生的佇まいに、澄んだボーカル。
スピッツのイメージといえばそれが浮かぶ。
ところが新作『フェイクファー』では一転して、ハードエッジな一面を垣間見せた。草野マサムネ、30代の一大決心か?
好きなのは「レスポールの音」、好きなボーカルは「イギー・ポップ」…。
30代を迎えた”万年ロック少年”の10年目の決算
小学校時代、ラジオのトップ50をノートにつけてたほど、歌謡曲に思い入れてた
『ハチミツ』がツェッペリンだとすると、新作はブラック・サバスかな
--前々作『ハチミツ』は、サウンドもアレンジも隙間なく構成された、スピッツ・サウンドのひとつの完成型だったと思うんです。そして次の『インディゴ地平線』は、こもったガレージっぽいサウンドとラフな勢いで、ライブ・バンドとしての面が強調されてた。で、今回の 1 『フェイクファー』は、どんなサウンドがまずイメージとしてあったんですか?
マ ハードロックのような、リフを生かした曲作り。昔は”メロディ至上主義”みたいなところがあったんだけど、それができるだけの余裕が出てきた。今でもメロディの良くない曲はやりたくないんですけど、今回はアレンジするのにメロディに振り回されずにできないかって思って
--確かにすごくシンプルなサウンドで、決して薄くはないけれど、音数は少ないですね。
マ 音の隙間まで見せてしまうほうが、パワー感が伝わると思った。昔からそういう音を目指してはいたんですけど、だんだんとアレンジとか凝ってきちゃって。ふと気が付くと、スピッツも売れ線ロックの仲間入りをしてるんじゃないかって…(笑い)。メロディとか歌詞はすごくポップなものを作ってしまう性分だから、それは変えようとは思わないけど、サウンドに関しては売れ線の音にはしたくなかった。だからね、例えば『ハチミツ』がツェッペリンだとすると、『インディゴ地平線』はディープ・パープル。で、今回は 2 ブラック・サバス的というか(笑い)。まあギャグですけどね、ブラック・サバスのファンには悪いけど、本来スピッツが持ってるサバスみたいなB級っぽさを出したかったんですよ
--'70年代ハードロック。スピッツらしからぬ名前の例えが、続々と登場しますねえ。
マ いちばん多感な時期というか、10代のころに夢中で聴いてたのが'60年代〜'70年代のハードロックだったんですよ。僕は逆に、リアルタイムの'80年代の洋楽って全然知らないんです。実はそのころ自分の声が嫌いでね。いわゆるロック的な癖のある声というか、渋い声に憧れてた。エレファントカシマシの宮本(浩次)さんみたいな声で生まれてたら、俺の人生が変わっただろうなって(笑い)
--そんな草野さんがボーカルに目覚めた、というのは?
マ 自分の声に自信が持てたのは、プロデューサーの 3 笹路(正徳) さんに会ってからですね。一時はスピッツが売れないのは俺の声のせいだと思ってたぐらいだから。実際、アマチュア時代のライブで、「曲は好きなんだけど声が嫌い」ってお客の話を耳にしたこともあった。でも、『空の飛び方』が売れたことで、この声が好きって思ってくれる人もいるんだ、っていう自信がわいた
--そもそも笹路さんと出会った経緯は何だったんですか。
マ 3枚目の 4 『惑星のかけら』が、俺らにすれば、自分たちの好きなヘビーなロックを追求した自信作だったんですよ。でもほとんど無視された。聴いてダメって言われるんならまだしも、聴いてさえももらえない。それで単純に「これは売れなきゃいかんのだ」と思って、笹路さんなら何とかしてくれるだろうと。それが勘違いの始まりだったんですけどね(笑)
--勘違い?
マ それで作ったのが『Crispy!』。売れ線の音にはなったんだけど、作り終わったとき「君ら、売れ線のバンドじゃないよね」って言われました(笑い)。「もともとが変なバンドだから、そこを大事にしないと魅力がなくなっちゃうよ」って。それで騙し騙しというか、スピッツってすごく素敵なバンドだよって思わせといて、実は内側の変なところとかB級なところ、毒の部分とかも聴かせられたらベストだよなと思った。それが初めてうまく出せたのが『空の飛び方』だったんです
--ようやく自分たちのオリジナリティが見えてきた、と。
マ アマチュアのころ、思春期のガキって、危なそうなものにひかれたりするでしょ。ブラック・サバスなんか、悪魔に呪われたバンドとか書かれてたり(笑い)。スコーピオンズがすごく猥雑なジャケットで物議をかもしたり。だから本当は、ルーツ的にはそんな感じだったんです
--もっと王道な、ビートルズあたりだと思ってました。
マ いや、あの人たちって髪が短いでしょう。もっと髪が立ってるとか、長かったりっていう、異形のものによりロックを感じていたんですよ。まだ俺らの時代って、ギリギリで「エレキは不良のもの」っていう認識があったし
--いわゆるギター小僧だった?
マ ええ、もともとギタリストでしたからね。マイケル・シェンカーが”神”でしたから(笑い)。それから基本ですけど、ジミー・ペイジ。ギターにすごい暴力を感じた。あとはジミヘンやクリーム、マウンテンとかユーライア・ヒープとか、ハードロックじゃないけどドアーズとかベルヴェット・アンダーグラウンドとかね。そういうサイケデリックな匂いや、ちょっと危険な感じのするものが好きだったんです。いまだにいちばん好きなボーカリストはイギー・ポップだし…(笑)
--繊細でキラキラしてる、っていうスピッツのパブリック・イメージとは正反対のものばかりですね。
マ (笑)。でもロックって本来、そういういかがわしいものだと思うんですよ
自分の声ってすごく嫌いだった
--でも、スピッツのイメージを決定づける草野さんの声って、そういういかがわしさは微塵もありませんよね。
マ ええ。自分のロックのイメージとは違う。だから初めは、日本人としてどういうオリジナル曲をやったらいいのか、ずっと考えてた。当時流行ってた日本語のロックには全然魅力を感じなかったけど、その中でブルーハーツは衝撃的でした。やられたと思った。日本語でちゃんとやってるバンドが、初めて出てきたなって。スピッツも最初のころはブルーハーツを目指してましたから(笑い)。でもしょせんは真似だから限界が見えたし、違和感もあった。もっと自由な考え方って思って、歌謡曲テイストを入れたことが、今のスピッツにつながってるかな
--いわゆる歌謡曲の影響?
マ 歌謡曲への思い入れはね、すごいですよ。小学生のころ、福岡のラジオ番組でベスト歌謡50なんてのがあって、その50曲を毎週、全部ノートにつけてました(笑)
--それがスピッツのもうひとつのルーツだと。
マ やっぱり日本語がきちんと乗るメロディっていうね。例えば 5 筒美京平さんと松本隆さんのコンビとか、歌謡曲のほうが見習うべきところが多いって、バンドを結成して2、3年のころから思ってた。それも'60〜'70年代の、昔の歌謡曲。 6 リアルタイムで流行っていたものは、どこか日本人であるっていうことを排除しているような気がしたんです
--ハードロックと歌謡曲、一見相反する要素のようにも見えますね。
マ 自分たちの音楽も今の大衆歌謡であるっていうのは、すごく意識してる。本当はアンダーグラウンドなものにすごく憧れがあるんです。そういう立場にいられたらもっとカッコいいのにって。でもやっぱり、自分の資質としてはポップなものが好きなんですよ。だからそこを、俺はポップな人間だと割り切って、その中で…ハードロックでもアンダーグラウンドでも何でもいいんですけど、いかに自由な世界を展開できるかが課題なんですけどね
デビュー10周年。今、再出発です
--新作では笹路正徳さんから離れて、 7 カーネーションの棚谷祐一さんとバンドの共同プロデュースという形をとってますよね。
マ 前作あたりから、ちょっと笹路さんに頼りすぎになってる気がしてたし、ここで一度離れてみて、笹路さんから吸収したものを自分たちでどこまで実践できるのか試してみたかったし。笹路さんもね、「そろそろ離れるときかもしんねえな」って話はしてたんで
--新作で特に印象に残ったのが「謝々!」なんですけど、こんなに骨太なサザン・ソウル・ナンバーは今までなかったですよね。
マ 俺ね、ソウルってすごい似合わない人間だなって思ってて(笑い)。まあ、声の問題もあってね。でも、さっき言ったように、すごく自由なというか、音楽の垣根がなくなって、何でもやれちゃう感じが今はしてるんですよ
--それだけバンドとしてもタフになってきてる。
マ ええ、ボーカリストとしても、以前はゴスペル風の女性コーラスとか入れちゃうと、俺の声が負けちゃうんじゃないかと思ってた。でも今は、そういうのを全部取り込んでなおスピッツだって言える、そんな自由さが出てきた
--その自信が「謝々!」にすごく出てるのかもしれない。
マ バンドとして去年でちょうど10周年だったんですけど、一段落ちついていろんなものが見えてきたんです。俺らに自信を与えて育ててくれた笹路さんへの感謝もあるし、CDが売れたことでいろいろ考えることもあったし。それを今回は栄養分にして、また新たにデビューみたいな気持ちもあるんですよ
-- 8 小沢健二の「ラブリー」を最初に聴いたときのような感じと、ダブる印象がありますね。
マ うん。俺もできてからね、『ライフ』に近いものもあるかなって、ちょっと思ったりもしたんですけどね。オザケンに遅れること4年(笑い)。自分たちの中でそういうことになってるかもしれない。本当に再出発って感じでね。どこかで底抜けに明るいものを求めてるんです
1.『フェイクファー』
3月25日に発売された、スピッツ8枚目のアルバム。シングル「運命の人」「スカーレット」を収録。ブラック・サバスの名曲「パラノイド」を彷佛させる「スーパーノヴァ」や、両サイドに配置したギターがうなる「センチメンタル」など、本人が語る通り、ハードロックの影響を前面に押し出している。30代初めての”ルーツ回帰作”。
2.ブラック・サバス
'70年にデビューしたイギリスのバンド。ボーカルにオジー・オズボーンを擁し、黒魔術やオカルトという概念を持ち込んだ、ヘビーメタルの始祖。シンプルなリフを生かした大胆なサウンド作りで、後のバンドに与えた影響は大きい。'78年にオジーが脱退してソロに転向。バンドは、ギターのトニー・アイオミを中心に現在も活動中だ。
3.笹路(正徳)
'55年生まれ。自身のバンド「マライア」を経て、'80年代後半からプリンセス・プリンセスやユニコーンを手掛けてきたプロデューサー。”時代を読む”や”型にはめる”よりも、アーティストの長所を伸ばしつつ”売れる”音に仕上げる手腕に定評がある。「ムードメーカーとしてもすごく盛り上げてくれて、レコーディングが楽しくなった」とは草野の弁。
4.『惑星のかけら』
'92年発表の3作目。オーケストラを導入して幻想的な世界を描いた前年のミニアルバム『オーロラになれなかった人のために』から一転、ヘビーなギターをフィーチャーしたパワーロックを展開。本人は、「当時流行ってたグランジの影響もある。そういうのを、青筋立てた感じじゃなくできればと思って」と語っている。
5.筒美京平さんと松本隆さんのコンビ
作曲家・筒美京平は、'60年代以降の和製ポップスをアートにまで高めた人物。松本隆の作詞曲では、太田裕美「木綿のハンカチーフ」が代表作。あの大ヒット曲も構成の奇抜さから、当初はシングル化も危ぶまれていたという。
6.リアルタイムで流行っていたものは、どこか日本人であるっていうことを排除している
一連の松田聖子のヒット曲に顕著だが、'80年代は歌謡曲のアレンジにTOTO、エア・プレイなどをお手本にしたフュージョンサウンドを導入するのが大流行した。この現象は、当時「歌謡曲の洋楽化」と呼ばれた。
7.カーネーションの棚谷祐一
近年はアメリカ南部的サウンドに手を染める、直枝政太郎率いる古参ロックバンド。最新作は『ムサシノep』(日本コロムビア)。棚谷はキーボード担当で、スピッツの録音では、オルガン、打ち込みパートなどを担当した。
8.小沢健二の「ラブリー」
初めてのソロ『犬は吠えるがキャラバンは進む』の内向的世界から一変した、躁病的アルバム『ライフ』を象徴する一曲。南部っぽいハネたリズムと高らかに再出発を宣言するかのような詞が、「謝々!」と共通した解放感にあふれている。
文−烏賀陽弘道
草野マサムネ−マ
「いつもオドオドしている自分イヤだなあって思う」
「売り上げが100万枚超えるともう理解不能ですねえ」
スターなのに、自分の人気をひと事のように見ている。
「メディアの中の自分って、もう独り歩きしちゃってますから」
撮影現場の隅に、背を丸めて民族学の本を読む地味な青年が座っていた。それが草野マサムネ本人だと気づくのに、しばらく時間がかかった。
不思議な人だ。30歳。髪には白髪がちらほら。なのに、歌そのままに高く澄んだ声も、少し不安げな眼差しも、少年のようだ。
どうしてあなたの歌はこんなに売れるのでしょう。そう問うと、両手を膝に置いたままじっと考え込んだ。
マ 僕って、本当に冒険できない性格なんですよ。ぐずぐず考えちゃって
黒縁眼鏡の奥で、牝鹿のような瞳が弱々しく笑っている。
マ みんな冒険したがっても、日常の中ではちょっとしかはみ出せない。歌の世界でだけ、ちょっとトリップしてみるか。そんな僕自身の姿が共感されるのかもしれない
あなた自身の姿、ですか?
マ 僕ね、子どものころ”眼中にない君”だったんですよ。今でも”仲間外れ恐怖症”ですぐ落ち込む。イヤなんですけど
勉強も運動もぱっとしない。地味で目立たない。僕って、一体何なんだろう。ギターを習って歌を作り始めたのも、そんな自分から脱皮したかったからだ、という。
マ どっか違う世界、違う道はいっぱいあるはずだ。いつも探していた。ドロップアウト願望はすごく強いのに、できなくて
目が、時々ふうっと遠くへ飛んでいる。子どものころの遊び場は、空想の世界。友達はペットのスズムシや熱帯魚だった。今も、地図や本を読んでは異国や太古の人々の暮らしを空想するのが好きだ。
そのせいだろう。彼の歌にはいつも不思議な「ものたち」が次々に現れては、聞く者たちを異世界へと誘う。子犬、コウモリ、猫。チェリー、梅干しに超新星。行く先は異国だったり宇宙だったり空だったり、時には死の世界だったりする。
君に会いたい。かわいい年月を君と暮らせたら。そう呪文のようにくり返す。浮かんで消えるガイコツが恋のリズムを鳴らし、2人の思い出はすべて幻と消える。不吉で、儚いラブソングである。
マ 俺って、モノが集められないんですよ。どうせ死ぬんだし、と思うから。どうせこの世は仮住まい。ははは
そう言いながら、視線は窓の外の清潔な街を行き交う人々を追っている。
この国って、生命の匂いがしない無臭な感じですよね。おれ、CDもテレビも相対理論も、仕組みが理解できないうちに死ぬんだろうなあ。そう思うと悲しいなあ。
また死の話である。少し心配になってきた。孤独と死をこれほど身近に感じている男の歌が150万枚も売れる国の若者って、一体何なのだろう。
マ 援助交際って分かる気がする。だってカネがないと人と同じになれないから
そう言って、またしばらく考えた。
マ でも、ナイフ振り回して先生刺しちゃう中学生って、おれ分からない。きっと何にも見えなくなっちゃったんだろうな…
外では夕闇が迫っていた。次の言葉を待っても、その目はもう闇の向こうのどこか遠くを見つめていた。
●くさの・まさむね
1967年12月21日、福岡市生まれ。本名は正宗。父はサラリーマン、母は主婦。弟と妹がいる。植村直己や本多勝一の本を読んで探検家に憧れたり、漫画家になろうかと考える少年だった。中学1年のころ、母親のアコースティックギターを弾いたのが音楽に入るきっかけ。高校時代はスターリンやブルーハーツなど日本のインディーズバンドに傾倒、前後して作詞・作曲を始める。
東京造形大学に入学して上京、後に武蔵野美術大学に移る。在学中に「スピッツ」を結成。ギターとボーカル。大半の曲を書いている
91年 アルバム『スピッツ』でデビュー
92年 『惑星のかけら』
93年 『Crispy!』がヒット
94年 『空の飛び方』
95年 『ハチミツ』
96年 『インディゴ地平線』
98年 新アルバム『フェイクファー』
『ハチミツ』『インディゴ地平線』は150万枚を売る大ヒットになった。代表曲に「涙がキラリ☆」「ロビンソン」「チェリー」「渚」など