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2002.8/10,25合併号 rockin' on Japan

文−鹿野淳


草野マサムネ−

 

どっちみち人間なんて「食べたい、休みたい、セックスしたい」ぐらいのものでしかないって考えると、もう曲作ってる意味なんてなくなっちゃうでしょ。

思い込みでもいいから、「もっと人間には何かあるんじゃないか?」って考え始めたんです

 

草野マサムネ一年振りの独白──シングル2連発、そして待望のアルバムへ。

結成15年目にして遂に自らの宝箱を開けて輝きをたしかめたマサムネが、改めて問いただす”誰もいない世界の王国=スピッツ”の戦闘能力

 

いきなり手前味噌な話で申し訳ないが、スピッツの話題になるとジャパン編集部はカッチリ一つにまとまる。それこそ10年以上前から、ずっとそうだ。編集部自体は何度も変貌を遂げ、ノリも随分転がってきたんだが、ことスピッツのことになるといつもみんな膝を丸めたような顔をして(どんな顔だ?)微笑を浮かべながら暖まっていく。そうやって、あっという間に10年が過ぎてしまった。

少々乱暴だが、僕はスピッツの音楽は一つの”クスリ”だと思う。何故ならスピッツによって、いろいろなことが”治る”からだ。例えば、編集部はいつもスピッツの話になると、メロディーや和音やギターの鳴り音などの非常に音楽的な検証に自然と辿り着く。そういう音楽批評の根本に立ち返らせる作業へと誘うスピッツ。スピッツの曲がヒットすると、「やはり音楽はキャラじゃなく曲だ」とか「いいメロディーに勝るもの無し」などといった、手の平返すことすら爽快な気にさせるムードが風に吹かれて飛び回る。シーンもそうだ、ポップの方程式から逸脱した新しい方程式に勇気づけられる者が、新たなセンチメントの壁を壊して旋律にしていく。そうやっていろいろなことの「そこだよ、そこ!」へ、スピッツの音楽は多くの人を誘って来た。

8月7日に新しいシングルがドロップされる。しかも2枚。結成15年に突入し、2年ぶりのアルバム・リリースへのカウント・ダウンも始まった。それでなくとも、今年のスピッツは”とてもスピッツ2な予感がビシビシする。「水色の街」と「ハネモノ」という、タイトルからして──まるで宮崎駿映画に出てくる景色やイキモノに付けたくなるようなネーミングの──まさにスピッツ・ワールドなダブル・シングルは、陰と陽とか、売れ線とやりたい放題とかいう俗っぽいコントラストが全くない。ただただ「スピッツです」と所在なさげに強く発し続ける大切な光のような、はかなくも美しい楽曲だ。一年前、ミスター・チルドレンの桜井和寿は”ポップ再検証”と題してミスチル黄金律を蘇生させ、『It's a wonderful world』という幸福な化け物アルバムを作った。草野マサムネは、マサムネ独自の天然記念物的なるやり方で(亀田誠治という名プロデューサーのサポートを得て)”誰も相容れないスピッツという王国”の再建を、この2枚のシングルで見事に計っている。テツヤのアルペジオが、マサムネの倍音がかったヴォーカルリゼイションが、崎ちゃんの実は野太いドラミングと田村の見事に唄っているベースが、4人の奇跡のアンサンブルによって陽炎のような笑みを浮かべるメロディーが、ポップ・ミュージックの普遍的な気持ち良さをラジカルに響き渡らせている。こういう季節が訪れるからポップは鳴り止まない、と想わせる素晴らしい楽曲だ。

今回はマサムネに、再び始まった”宇宙の風に乗ったスピッツ”の復活の経緯を話してもらった。そんな季節に相応しい川内輪子さんの素敵な写真と共に楽しんでもらうことを、心からジャパンは祈ります。そして次号から2号連続で(8月24日&9月10日売り号)来たるべきアルバムを肴に4人と話し合おうと思います。実は僕は逸早くフライング決めてアルバムのラフ・ミックスを聴かせてもらったが、いいんだなあこれが! さあ、スピッツを何度も何度も楽しみ合いましょう。

やるせないほど痛き日々は続くけど、やはりスピッツは鳴り止みませんでした。これは、そんな始まりを再び告げる真夏の読み物です。

 

--昨日の素晴らしい撮影に次ぐインタビューになるわけですけど。大丈夫?

 え、何が? 突然(笑)

 

--いや、僕は今日朝シャワーを浴びようと思って、さりげなくシャワーを取った時に、右手が上がらなかったんですけど。大丈夫ですか?(笑)。

 ああ、キャッチ・ボール。いや、全然大丈夫(笑)。駄目ですねえ

 

--(笑)。野球がすごい好きだし、チームも作ったって話を聞いたから、これはキャッチボールしかないって思ってね。

 (笑)。いやいや、俺はほんとに、ちょこっと参加さしていただいてるだけで。控えの控えです。しかも出席率がそんなに高くないし

 

--なんですけど、いざ投げてみると球筋は非常によくて。でもボールを受け取る時にちょっと不器用な時とかがたまにあったりとかしていて。

 そうですね。グローブをはめること自体がもう30年ぶりって感じだったから、去年は。でも、練習するよって言われてる日に限って、西武ドームに観に行くほうを優先してしまったり(笑)

 

--(笑)。30年ぶりぐらいに、なんか体を動かさなきゃなあみたいな、そういう気持ちがあったわけですか?

 30年もないか(笑)、何歳なんだ俺は。20年ぶりぐらい、うん。そうですね、いや、バンド内でもそういう気運が高まりつつあって。体動かしたほうがいいんじゃないかっていう。なんとなく衰えを感じてるんじゃないでしょうかね。具体的にっていうわけじゃないんだけど。べつにライヴとかはね、体力的に辛いですとかいうのはないんですけどね

 

--それはバンド結成して10年ぐらい経ってきて、老いというものに自覚的になろうぜ、イェーイ!みたいな?

 うーん、そうですねえ(笑)…や、運動不足から風邪ひいたりするっていうじゃないですか。適度な運動をすることによって、免疫力もつけられるかもしれないし、ひょっとしたらいい眠りが得られるかもしれないんでね。眠りが浅いんですよね、最近なぜか

 

--さっきから老人のようなこと言ってますけど。

 はは。やっぱりすごい距離歩いたりとか、それこそキャッチボールとかした日は、わりとよく眠れるんですよね、単純に

 

--快適に眠ることによって名曲が生まれてきた自分、みたいなものもあったりするんですか?

 そこには繋がるのかな(笑)。いや、かえってあんまり眠れない時のほうが、曲が浮かんできたりするかもしれないです。うん、眠れなかった朝とかね。おもむろにギターを持ってとか、そういう時のほうが生まれるんだよね

 

--なるほどねえ。ただ3年前ぐらいからですかね、非常にハードなツアーっていうものを、バンドは組むようになってきて。

 はい

 

--そこの部分と今の話というのも、結構シンクロしてるような気がするんですけどね。

 ああ、はいはい。そうですね。だから衰えを自覚してから、頑張りますからね(笑)。バンドとしてはいい方向に向かっていると思いますけどね。特にライヴバンドとしてはいい方向に向かってるんではないでしょうか…まあ、相変わらず試行錯誤はしながらですけれども。でもべつにバンドの存続を脅かす問題に当たることもなく。そのへんは幸せな環境でやれてますね

 

--前作である『ハヤブサ』の時はなんとなく、バンドの存続っていうよりも自分の中で、スピッツの必要性ってなんなのかなあ、みたいなことをちょっと考えちゃったこともあったんですよね。

 うん、そうですよね。でもまあ考えなくてもいっかなと(笑)。ある意味もう『ハヤブサ』で達成感ていうのがあったんで。その次どうしようかなというのはちょっとありましたね。ま、ちょこちょこ新曲も作ってはいたんだけども、アイディアだけはすごいいっぱいたまってたんだけど、その中からどれをピックアップしていったほうが、よりこう、密度の高い音楽活動に繋げられるかっていうのがちょっと、いろいろ考えたりしてましたけどね、実は

 

--それはいつぐらいの話?

 それは常に、「さわって・変わって」を作ったあたりから考えてました。あれはあくまでもライヴで演奏するための曲として作ったので。それを例えばアルバムとか、ソフトから先に発表するような楽曲の場合はどうしたらいいんだろうというふうにもちょっと考えて。それはまたちょっと違う考え方になっていきますから。あの、あの頃言ってたかもしれないけど、ちょっとアコースティックなものに対する…興味というか、欲求みたいなのが出てきてるっていうのもあったんですけど。まあそういうのが基本にはあったんですけどね

 

--なるほど。いや、実はちょっとフライング気味に、アルバムのほとんどの曲も聴かせてもらっておりまして。今回の取材は、約半年ぶりぐらいのシングル・リリースとともに、バンド自体が2年ぶりぐらいの、アルバムという新しい季節に向かっているというところで、そのへんの総体的な話をしていきたいと思うんですけど。

 はい、よろしくお願いします

 

--こちらこそ。僕は、マサムネくんが今言った、アコースティックに向かっていったというところというのは、スピッツの音楽性であるとともに、自分の音楽というか、マサムネくん個人の問題というのもすごくそこには大きく働いているような気がしたんですけど、そのへんはどう思いますか?

 より個人よりの音楽を作るってことですか?

 

--はい。

 ああ…どうなんだろう、そのへんは今までもそうだったのかな。でも、今回全部俺の曲ですしね、アルバムね。うーん…たしかにね、『ハヤブサ』とかに比べると、ノリで作ったって感じではないんですね。自分のこだわりっていうのはすごい…しつこく突き詰めていったし

 

--『ハヤブサ』もノリで作った部分と、すごく繊細なものとのバランスというのは入っていて。それはイコール、やっぱりスピッツというバンドのグルーヴというノリだったと思うんですね。で、今回はどっちかっていうと、「俺は何を…」みたいな?すごく内省的なところから始まってる感じが(笑)。

 あ、そっか。そうだ(笑)

 

--うん。「さわって・変わって」以降から。だからあーいうバンドとしてはっちゃけたのをやっちゃったから、あとどうするんだろうっていうことも含めて、そういった部分がすごく強いんじゃないのかなあと思った。

 どうなんですかねえ…うーん、内省的になってんのかなあ。確かに『ハヤブサ』出したあとで、自分の音楽とかいうのをちょっと引いた立ち位置で聴いたり、見つめ直すような気持ちではあったんですけどね、しばらく。それはライヴとかでもそうだし、まあレコーディングのスケジュール出た段階で、どういう音楽やろうかなっていう時にも。でも、バンドももう15年目に入ってっていうような状況で

 

--すごいよね。

 うん(笑)。で、何を今スピッツでやったらいいんだろうなっていう──まあそれは毎回考えますけど。でも、昔よりさらに考えちゃったというか

 

--それは他のバンドであるとか、ミュージックシーンの中に、対象物みたいなものがあった感じなんですか?

 んとね、対象があればもっと楽に考えられたんだけど、あまりなかったんですよね。だからほんとにもう、一つの個としてのスピッツであり、俺でありっていうところで考えるんで

 

--それはある意味、すごく孤独を感じたってことともイコールだったんですか?

 うーーーん、孤独というよりはね、まだなんか殻の中にいるような気がしてたっていうようなとこで、自分自身が。まあそりゃ気のせいだったのかもしれないけど。で、しばらくなんか、あのー…普段からロックが好きなんですよ、聴くのもね

 

--(笑) 改めて言うことでも。

 それからちょっと離れてみたりとかね、したりとか。聴く音楽が。で、もちろんトレンドのものではなく、なんか、まあエスニックでもいいし、映画音楽でもいいし、ジャズみたいなものでもいい

 

--それはなに、サントラとかワールド・ミュージックへ行ってみたっていうこと?

 うん、まあ昔からそういうのも好きなんだけど、一時期そういうのばっか聴いてる時期とか、そういうのを求めちゃいがちになる時期があったんです。曲作るにあたって、お約束の曲の作り方っていうんじゃない方法もあるんだろうなあと思いつつ。ま、でき上がったのはお約束になってるかもしんないけど、なんか気分的にそういうとこから始めたかったのかな(笑)

 

--作家としてロックを離れをしたかった感じなの?

 うん、そうですね。なんかもう、このリフでこの歌詞ならオッケーっていうふうなのが嫌で、曲作ったり、バンド始めたりしたはずだったんだけど、なんか自分がそうなっていってるような気もしてたんで。ちょっと、もう一回初心に返る意味で(笑)

 

--なるほど。マサムネくんやスピッツより一世代二世代若いバンドほど──これはオルタナティヴ以降の発想だと思うんですけど、ロックが退屈になってきたからロックから離れていこうみたいなことを、ミュージシャン自体が考えてるんですけど。そういったものだったわけですか?

 そうですね。だけと、多くのバンドが行っているように、デジタルに走るのってすごい口惜しい気がするんで(笑)。反発心みたいなもんですかね。もともと俺、そんなにダンス・ミュージックとかに興味がないから。まあ好きなのもあるんだけど、それを自分でやろうっていう興味はなかったんで。でもなんか他にいろいろ、面白いことできないかなって考えたりとかはしてたんですけど。それが劇的に表れてる楽曲っていうのは、今回ないかもしれないんだけども、なんとなく…誰かと自分を比較しながら作るっていうような作業は、今回はあんまりなかったんですね

 

--なるほどね。例えばワールド・ミュージックとかサントラとかを聴いてて、具体的にズンチャッ、ズンチャッ、とかいう、手でスパニッシュギター弾いちゃうような曲とか、ブリジット・バルドーみたいな音楽が生まれてきたりとかはしたんですか?

 デモテープの段階ではね、ドラムのリズム・パターンからちょっと離れてみようとか、そういう気持ちは働いてましたけどね。タム中心で作ってみたらどうなるかなあとか。メロディーすら、変なものができたらそれでいいなと思ったりしてたし。ま、そういう試行錯誤もいろいろやりつつ、結局、でもやっぱりポップじゃないとみんな喜ばないんだろうなっていうような(笑)ところに帰結しながら

 

--性が実験に打ち勝ったと。

 ははは、そうですね。結局はそうなんですけどね。みんなに喜ばれたいんですね。だけどなんかこう…うーん、よその作り手にない、スピッツならではのものっていうのを、また模索し始めようっていうところではありますね

 

--うん、うん、うん、とても信頼できる話ですね。例えば今回、シングルが同時に二発出るわけですよね。「ハネモノ」と「水色の街」という。この2曲に関してもネガポジとかいう、そういう感じにはあんまり聞こえなかったんです。両方ともまさにスピッツだなあという、まさにマサムネくんの黄金律だなあと思って。

 うん、そうですね

 

--言ってみればこれが帰ってきたってことは、ものすごく、音楽リスナーにとって幸福なことなわけですよ。それが僕はすっごい嬉しかった。

 ああ、ありがとうございます。今回でもね、シングルに関しては、俺らの意志ではないんで(笑)。スタッフサイドから、「この曲とこの曲、どうですか?」「ああ、オッケーです」っていう形だったんで。それぐらい、アルバムのどれ切ってもいいっていうぐらいの気持ちがあったんですよね

 

--言っちゃうと全曲素晴らしいものってことになるんだけど、悪い意味で言っちゃうと「なに無責任なこと言ってんだ!」っていう(笑)感じでもあるんですけど。

 ははははは! まあでも、いいんじゃないですか、それはそれで(笑)。いい曲だし。だからね、今回、遊びの曲がないですよ

 

--そうですね。楽曲の中で遊んでることはあるんだけど、全部が音楽的で素晴らしい──だから一曲の中に全部帰着してる、一曲一曲がそれぞれのことを解決してる感じなんだよね。

 そうですね。そういうことになっちゃいましたね。もともとがそういう趣向だったんで。ちょっと『ハヤブサ』では遊んだりしたけども。…あとやっぱり気合いが入ってたんじゃないですかね(笑)

 

--気合い入ってましたよね。だからもう、今度のアルバムは間違いなく、スピッツというものの黄金律がほんとに所狭しと並んでいる作品になるだろうし、そういう意味では自分らのセンター・サークルというか、王道というか、そういうところに、ここ何年かの中で最大に戻ってきた作品と、あと意識が芽生えてるはずだと、僕は一聴しただけで思ったんですけど。

 うん(笑)…うーん…まあだから、遊びの中から最初は、自分の中では作ろうとしてたんだけど。で、結成して、デビューする前は、デビューって目標があって。デビューしたそのあとは、売れなきゃいけないのかな、売れよう、頑張ろうつって、それなりの結果が出て。でまあいい音での目標を高く設定して、作ってみたりとか。何かしらの目標立てながら来たんだけど

 

--そうですよね。それこそ前回のインタヴューではマサムネくん、「ロッキングオン・JAPANに出るのが一つの目的だった」みたいな(笑)、すごいありがたい話もしてくれていて。で、『ハチミツ』で売れたりっていうところで、一つ成就され。『ハヤブサ』っていうのは、そこから実利を伴うっていうか、サウンド・クオリティを自分らの意志の下に、響くものを作りたいっていうところまで来たわけですよね。

 そうですね。だから今回はそういうのがないんですよ。むしろまあ、レコーディングしてる時とか、曲を作ってる、まあゆくゆくライヴでやる、その時その時に輝けばいいんだっつうぐらいの気持ちで。だけど、その輝く光の強さっていうのを、今まで以上のものにできればいいかなあと。濃いものに。もう…まあある程度ジジイになって(笑)、トレンド意識する体力もなくなりつつあり。だけどこう、これでどうだ!っていうような強度はまだ持ってると思うんで

 

--他の人間と比較するっていう欲望は失せてきた感じはあるんですけど、「俺はすげえだろう」っていう欲望の主張みたいなものは、俺はスピッツと草野マサムネっていう人は、ああやはりギンギンにまだあり続けてるんだなあってことを、今回すごく感じてるんですけどね。そのガンバリズムはすごいなあ、みたいな。

 うん。だからよく作れたなあと思って。曲作れんのかなとか、一瞬(笑)、去年とか思ってたんだけど。去年のインタヴューの時とか鹿野くんに、いろいろくっちゃべってるけど、十何曲も作れんのかなあとかね(笑)。うーん、2〜3曲すっごい強いアイディアはあるんですよ。それが…連続して出せるものではないかもなあ、っていう。シングルから収録したのもあるけど。まあ頑張ったなと思いいますけど(笑)

 

--『ハヤブサ』の時は、だから2年前ですよね、2年前のスピッツっていうのは、マサムネくん自身もよく口にされてたんですけど、”打倒!『ハチミツ』”という(笑)言葉が一つあって。それはすごく外的要因が強かった気がするんですよ。『ハチミツ』っていう、スピッツが迎えた一つの、最大のピークの季節? そこをもう一度というものであり、そしてプラス、「俺たちここまで来たんだから」っていうサウンド・クオリティであり。そういうところがあったと思うんですけど。俺は今回は”打倒!『ハチミツ』”というよりは、スピッツの一番いい季節、だから俺の一番いいものよりもさらにいきたいなあみたいな?

 うん

 

--僕がさっきから「内省的」って言ってるのはそういう意味なんですけど。内的な自分に勝つというか、スピッツというもののすごくピュアな部分、ピュアな音楽的な部分に目を向けて、そこに対して自分で山登ってたんじゃないのかなあという気がするんですよ。

 うん、うん…うん。そうなんですね

 

--「水色の街」なんて、まさにそういう曲かなあって気がした。このセンチメンタリズムと、あとこの水色という、ブルーっていうのはある意味、スピッツの音楽の中での、やっぱりキラーパスだと思いますよね、リスナーに対する。

 なるほどね(笑)。そう、実はあんまり奇衒ってないんですよ、今回。意地悪してないような気がする(笑)。あのねえ、やっぱりあの去年のテロ以降に、ロックは贅沢品ていう、自分の中での疑問があったりして…

 

--娯楽だなあ、という。

 娯楽だし、暇つぶしなのかなあとか。それでも頑張って、みんなに極上の暇つぶしを提供しなけりゃいけないのかも──とかいうふうになってきて。そうすっとなんか…うーん、今まで聴いてくれた人もそうだけど、新たに聴いてくれた人をちょっとでも退屈さしたくないなっていう気持ちが、作る時に働いちゃったんで。ひょっとしたらあの事件がなかったら、「宇宙虫」みたいなああいう曲が全編に散らばっているような作品もできたかもしんないんだけど、やっぱそうはならなかったんですね

 

--なるほどね。だから贅沢品ということで言えば、”たかが”よりも”されど”の部分のほうが(笑)、どんどんどんどん上がってきてますよね。

 そうですね、うん

 

--それは、そういうところに自分を追い込んでいった部分もあるんですか?

 うーん、追い込んでくっつうか、徐々に、そう思えるように仕向けるというか(笑)。ああいうことあると、下手するとすごく、ニヒリズムに陥りそうになる時とかあるじゃないですか。ニヒリズムって音楽にとっては物凄い敵なんですよ、俺が思うに。なんで…そうなっちゃダメだっていう気持ちを奮い立たせつつ

 

--あー面白い。ニヒリズムというのは、ロックにとってはある意味すごく大きなヒントであり続けて、ここまで──それこそスピッツの歴史以上に、50年間のロック・ヒストリーの中ではあり続けてきたものですよね。それを大きな甘い誘惑というか、敵というのは、ある意味すごく厳しくて、新鮮なものを覚えた(笑)。

 (笑)うん。そう、だからほら、どっちみち人間ていうのは、”食べたい、休みたい、セックスしたい”で。ちょっと人より優位に立てればいいかな、ぐらいなものでしかない、っていうふうに考えちゃうと、もう曲作ってる意味なくなってきちゃうし。作る意欲がなくなってくる。思い込みでもいいから「人間ってもっとなんかあるんじゃないか?」っていう。だからね、前はいろんな人間の欲望みたいなものを楽しく肯定したりして曲作ったりできたんだけど、もう今はあんまりそういうことできないので

 

--うん、うん、うん。この音楽は全て極上の遊びなんですけど。余技がないんだよね(笑)。

 ああ、ああ、そうですね。そういうことを楽しく思えなくなっちゃったっていうか。なんていうのかな、せっかちになってますね(笑)

 

--はははははは。

 まあもともと、フェードインのイントロの曲とかって嫌いなんだけどね(笑)

 

--そうだね。ただ、それがもう完全に功を奏してますけどね。俺、ただここに至るまでね、スピッツとマサムネくんの中では、やっぱりいろんな試行錯誤があった気がするんですよ。そのプロセスとして、去年はいろんなことをやりましたよね。具体的に言うと、はっぴいえんどのトリビュートやったり、YUKIちゃんのアルバムに1曲参加したり。マサムネくん自身は椎名林檎さんのカバーアルバムの中で、壮絶なヴォーカル・セッションを(笑)。2オクターヴぐらい低いんじゃねえかなあ、みたいなさ(笑)。

 あれ、でもねえ、テープもらって家でちょこっと練習した時は、もっと、いつもの歌い方でやろっかなと思ったけど、いつもの歌い方だと噛み合わないんですね。彼女とね

 

--あれは、ああいう歌い方を頼まれてやったんじゃなくて、自分で選んだの?

 いや、最初はだから、合わせてスタジオで歌ってると噛み合わないなあと思って、これはもう思いっきり影響されて歌うしかないと思ってやりだしたら、林檎さんも亀田さんも盛り上がってきて、「もっともっと!」って(笑)

 

--はははは、そうなんだ、へえ。いや、戯曲的な歌い方だなあとさ。

 うん、林檎さんに影響されましたね。だってあんなに低音で声張ったことはあんまないでしょうね。低音で囁くようなのはありますけど

 

--そうそうそうそう。だからあれは一つのチャレンジだったし。あと、YUKIちゃんの曲は何が面白かったって、「ああ、スピッツが鳴らせばスピッツになっちゃうんだなあ」という(笑)。

 はははは

 

--物凄い、ある意味獰猛で暴力的なスタンスだったと思うんですよね。あれを聴いて、テツヤくんのアルペジオの登録商標具合っていうのもすさまじいものがあるなあと思ったしさ。

 そう、YUKIちゃんのは他の曲がシーガル(・スクリーミング・キス・ハー・キス・ハー)の愛葉さんが作った曲でしょ。あん中にあるといつもより気持ち悪い感じに聞こえて。いい意味でね(笑)。なんか病的なポジティヴィティーを感じるような(笑)

 

--そうそうそうそうそう!

 あれ1曲だとそんなことないんだけど(笑)。すごい面白く思いましたけどね。いや、全体的にでも、いいアルバムだったな、あれは

 

--素晴らしい作品でしたね。素晴らしい可能性と実績を持ってる人の素晴らしい門出だなと思ったし。あとはっぴいえんどの中でも、スピッツの普遍性というものを(笑)証明する、一つの。

 完コピじゃんて話もあるんだけどね

 

--はっはっは! あれは狙ってたんじゃないの?「ほら、俺たちって昔の名曲とも繋がってるんだよ、これだけ普遍性があるんだよ」って。

 いやいやあれもね、偶然ね。俺らは曲、これにしますって決めるのが遅かったんで、選択肢が少なかったんですね。この曲とこの曲とこの曲ぐらいしかないんだ、っていうところで、だったらまあ、うん、「12月の雨の日」かなあと。でもあまりに、元からスピッツを匂わせるような曲だったんで、いいのかなあと思いつつも、やっちゃったという(笑)。だからイントロのテツヤのギターだけ思いきりいろいろ、遊ぶようにして

 

--ただ、どこでもやっぱり自分らの王道を? まあ椎名林檎さんのあれはそうではなかったんだけど、YUKIちゃんとはっぴいえんどっていうところでは、自分らの王道というものを、他のメジャーで素晴らしい音楽とある種合わせられるという、そういうことをして。でもスピッツというものが濁らない、そして薄くならないということをやってきたなと思ったんですよ。

 うんうん

 

--俺はつまりそれっていうのは、やっぱりスピッツってもの自身に対する愛情を、マサムネくんがもう一度確信するような、そういうことだったのかなっていう気がしたの。その下に今こういう、ほんとにスピッツどっぷりな作品が再びね(笑)。

 ああ、そうですね。そうなんですよ。だからはっぴいえんどトリビュートとかは特にそうなんだけど、そのあとで、「で、こういうのやってます、僕らは」っていうのをちゃんと作んなきゃっていう。逆にプレッシャーをかけるっていうことを、自分の中で敢えてしたと思うし

 

--そうですよね。自分の表現というものを追い込んでいってましたよね。

 うん。だからもうほんとに、言ってみればシンプルな感じになってるんだと思うんですけど。まああとは亀田さんとの出会いもおっきいですけどね。あのー…まあ石田くんにしても、笹路さんにしても、大なり小なりそうだったんだけど、亀田さんはたぶん一番オタクっぽいていう(笑)、音楽に対して。そういうところでの共鳴っていうので…すごい楽しみながらやれたし。気が大きくなっていくような感じでしたね

 

--僕は笹路さんも石田小吉くんのプロデュース・ワークも全部含めて、やっぱりすごく作品主義なものの考え方で素晴らしい作品をスピッツと一緒に作り上げてきたと思うんですよ。でも亀田さんていうのは、作品ていうよりは、なんていうの? もうちょっと内職的というか(笑)。バンドと音楽を貪ることを楽しんでますよね。

 うん、うん。それはでも、今回はすごい、俺らにもあったし。レコーディングしてる瞬間が楽しくないと、っていう。その瞬間のためにやってるような、感じでしたけどね

 

--だから亀田さんは、音楽をやってることとか、音楽に携わっている時間に対して、すごく愛情を感じてプロデュースをするし、ということはやっぱりロックバンド好きでもあるだろうなあという、そういうところがすごく感じられて。だからマサムネくんの中でね、どっか動物的に、スピッツというバンドのバランスはもうあの人に任しておけば全部勝手にやっくれるだろうみたいな(笑)。

 はははは

 

--だから、作業というか、曲を書く、言葉を綴るという部分にとって、より個人的であっていいっていう方向に、すごく幸福に向かっていった気がしてたんです。

 ああ、それありますね、うんうん。煩わしいことから解き放されつつ、楽にやるという意味では、非常に助けてもらったかなあと思うし

 

--この「ハネモノ」は、「水色の街」もそうだったんですけど、カーステで聴くと一番顕著なんてずけど(笑)、ボトムの太さが異常にあって。必要以上にドゥンドゥンくるんだよ(笑)。

 あ、そうなんですか。カーステでまだ聴いてないんですよ

 

--すっげえくるよ。ほんとにリズムのボトムが非常に太いよね。 

 カーステねえ、大事ですよ。ほんとにねえ。これは書くべきことかどうかわかんないけどね、『ハヤブサ』、俺家で聴く分にはすごい気に入って聴いてたんだけど、カーステで聴いた時に、ラルクに負けてる気がしたんですよ、すごく(笑)

 

--なんで?

 音のボトム感ですね、やっぱり。「うわー、ラルクすげえ!」と思って

 

--ラルク・アン・シエルは実はアンサンブルが太いよね「ヘブンズドライブ」とか僕もびっくりした。

 ね。やっぱベーシストがイニシアチブ持ってるバンドでしょう、そういうのもあると思うんだけど。ボトムが出ることによって、でもタイトさがなくなるサウンドっていうのが多いんですよ、世の中的に。俺が感じてる中では。だけどすごいタイトだし。家で聴くとそんなにも感じなかったんだけど、車で聴くとラルクすげえ!と思って。だから『ハヤブサ』も家では素晴らしかったんだけどね、今回はボトムが結構出てるって聞いて嬉しいですね

 

--あ、ほんと。マサムネくんは狙ってなくとも、亀田さんは狙ってるよ、絶対。

 狙ってますよね、きっとね。亀田さん、ベーシストだしね

 

--そうだよね、そうそうそうそうそう(笑)。だからまあ、あそこまで、言っちゃえば出さないでいい曲なんだけど出てるっていう部分は、やっぱりすさまじい(笑)、プロデューサーの方のバンド愛っていうものが出ていて。で、そこにマサムネくんの非常に個人的な(笑)。「水色の街」は、個人的な度合いが強い曲だっていうふうに僕は感じるんですけど、そこでこの”頸の匂い 明るい瞳/会いたくて 今すぐ 泥まみれの靴で/水色のあの街へ”? これ最高!

 (笑)あ、ほんとに?

 

--これ最高だね! ”頸の匂い”は、ヤバすぎだね(笑)。草野マサムネにしか書けない、官能ポエムというか(笑)。儚さと色っぽさのリリシズム。

 あれね、頸を首にするとニュアンス違うなあと思って、これで書いて、うちのサブマネに「じゃあこれ、ちょっとワープロ打ってくんねえ?」って言ったら、「これ、顎でいいんですよね?」って(笑)

 

--はははははは!

 それもまたフェティッュな世界だなあと(笑)

 

--素晴らしいスタッフに恵まれてますねえ(笑)。今すぐクビにして欲しいですねえ。

 ははは。それはそれでフェティッシュだなあと思って。いや、女の子が俺の顎髭におってるみたいな、そういう?

 

--(笑)いや、まああの、幼少の頃の汗の匂いで一番きてるのは顎の部分なんだけど。

 (笑)まあそりゃ余談として

 

--ほんとに、非常に言葉が少なくて、限定されていて、その一言一言がこういう、決定的に匂いのある言葉が流れていて。このへんにはマサムネくんの、俺はまさに黄金律を感じましたけどね。

 うん

 

--これっていうのは、一度自分の音楽というものを再検証しなければ出てこなかったんじゃないのかなあという部分がすごく強くて、こういうことを訊いてるっていうとこも、実は強いんですよね。

 うんうん。まあさっきも出た部分で、ちょっとロックから離れてみてみようというような。それは、うーん、歌詞というよりは曲のほうでそういうことを考えたりしたんですけど。同様に歌詞においても、自分の作り方っていうのを──まあそれは『ハヤブサ』の時から一回崩してみたいとか、そういう試みはあったんですけど、崩すんではなく、掘り下げるようなやり方でもっとできないかなっていうのは考えてて。もっと、なんていうのかなあ、一体感のある歌詞っていうのかな。うーーん、そのロケーションがパーッて浮かぶような歌詞っていうのを、もっと作りたいなって今回は思ってて。シュールに聞こえて何歌ってっかよくわかんねえっていうような歌詞も、もちろん自分で作ってて楽しいんだけども、今回はもう少し状況がわかるように心掛けることによって、世界を掘り下げるっていうふうに向かったんですけど。…これもみんなに喜んで欲しかったんですよね。面白いですよね

 

--そうですね。だからこれは、自分のインナー・ワールドを正直に誠実にリスナーに向けて掘り下げてるっていう意味合いも強いわけですよね。

 うん、かもしれないですよね

 

--僕はね、自分が音楽作れないくせに、ほんとにおこがましいなと思うんですけど──違うことをやることっていうのは、ある意味楽なんじゃないかなというふうに思うんですよ。違うものを作っていくっていうのは。

 ああ、なるほどね。うんうん

 

--ただ、同じものを作っていくっていうか、自分のいいところを自分で判断して、そこをちゃんと作り続けていくっていうのは、物凄い才能が求められるし、あと才能のある人でも──才能がある人っていうのはすごく自分に厳しい人だと思うから、それを前回よりもクリアしていくっていうことを考えていくと、もう血反吐を吐くような作業なんだろうなあと思うんです。

 いや、そんなに(笑)。うーん、でもまあ確かに、「う何処にも俺は逃げないように」っていうふうには思っていますけど。だから、今回でもね、歌詞行き詰まることも多くって。作るのはかなり苦労はしたんですけどね…さっき言ったように、壊すんじゃなく掘り下げるっていうことで逃げないっていうことで、一つそのやり方を自分に課してたので。手抜きすればいくらでも作れるものなんですよ(笑)

 

--はい、よくわかります。要するに自分の中に、簡単な公式は。

 あるんですよね。そういう意味で日本語の歌詞を作るということにおいては、一応ブランキー(・ジェット・シティー)とかを師匠にしてんですけど(笑)。聴いて、ああすごいなあ、こういうの作ってみたいなあと思いつつ。自分なりの世界なんですけど、逃げてない感じっていうのかな。すごい奮い立たせたりしながら。なんで、『LOVE FLASH FEVER』は20回ぐらい今回聴いたかもしんない(笑)。歌詞、すごいですよね

 

--素晴らしいですよね。景色が広がって光ってますからね。

 うん。あとね、さっき言ったように、立体感のある歌詞っていうのを作ろうとするとねえ、それまで鉛筆で落書きしてたのを、いきなり粘土で作ってみろって言われるようなもんだから。うん、大変なことなんだなあっていう。ま、今回ちゃんとその立体感が出たかどうかっていうのは、聴く人の判断に委ねるしかないんだけど。俺としては、かなり立体感のある歌詞になったんじゃないかなと思ってて。サウンドの立体感ていうのはここ何年かずっと、バンドの中ではキーワードになってたんだけど、立体感のあるものを作れるはずだっていうふうに思い始めてやってます

 

--それってあれなんだろうね、昔からスピッツの歌詞には物語はすごくあったわけでさ。やっぱりスーパーファミコンがプレステ2になったような(笑)、だとしたらソフトも変えていかなくちゃなあ、みたいな。昔はポリゴンでカクカクしてる立体感でもすげえなと思ったんだけど、そこにより、ヒューマニティーを与えたいなあみたいな、そういうのだったりするんじゃないですか?

 それに近いかもしんないですけどね(笑)。あと、若い時のがね、闇雲にこう、自分のやり方っていうのに変に自信持ってる部分があって。ま、いまだに自信はあるんだけど──いろんなすげえ奴が世の中にはいるんだなっていう。それはさっきのブランキーにしてもそうだし。ものすごくふくらみがあるし。そういう世界に近づきたいなと思うしね。ま、だから、聴く人にもちょっとした──写真ていうよりは映像を見せるような感じの歌詞にしたいなあと、思ってましたね

 

--うん、うん、うん。そうですよね。「ハネモノ」も時の経過を、最小限のもので表現しようとしてて。そこに空気を入れ込んでいるような感じっていうのかな。”近づいて 抱き上げて/ノドを鳴らす 子猫のような/望み通りの生き物に変わる”っていうところとか、特にそれを感じますね。

 ああ。はいはい。まあだからこれからも、またそれはテーマになっていくことではあるんですけどね

 

--うん。『ハヤブサ』の時言ってた、『ハチミツ』という一つの状況に対しての自分の向かい方であるとか、あとバンドという構造? 『リイサクル』を聴いて一つ考えて。だから言ってみれば自分の音楽の再評価っていうか、再検証というのが、『リイサクル』を聴いたあの時期というのはすごく大きくあったわけですけど、あそこではやっぱり、スピッツというバンドの構造であるとか、そこに向かっていったわけで。今回より内面的だし、ディープだよね(笑)。

 ああ…ま、鹿野くんにそういうふうに聴いていただけたんだったら、よかったなと思いますけどね

 

--こちらこそ。

 だからディープかつビビットな感じっていうか。パキッとしてる感じ。パキッとしてるっつうと違うかな(笑)。うーん…あのー…、パステルでぼかしたような世界ではなくって、もっと──ベタ塗りな感じっていうかな

 

--うん、うん。でも何が面白いってさ、それってベタ塗りだから真っ赤とか、そういうことじゃないんだよね。

 うん。ベタ塗りだけど水色ってことかもしんないけど(笑)

 

--そう、水色のベタ塗りなんだよね(笑)。そこがだからスピッツでしかあり得ない、素晴らしい個性だと思うんですけどね。

 うん

 

--俺、うちの渋谷からさ、『bridge』の対談でマサムネくんについて連想する色っていう質問に対して、民生さんが「赤」って答えたっていう話を聞いて、渋谷は「何言ってるんだろうなあ」って言ってたんですけど、俺は社長に「いや、社長はやっぱスピッツわかってないからダメだ」って(笑)。

 はははははは

 

--民生さんが赤って言ったのは、素晴らしい色彩感覚で。スピッツっていうのは、青色みたいな、そういう冷たいものを滾らせていく、冷たさみたいなものを燃やしていく音楽で。冷たいということを情熱的に滾らせていく音楽で。「そこに赤みたいなメラメラした感じがあるんですよ」って言ったら、「何言ってんだ、パカ」って言われて、頭きたんだけど(笑)。

 (笑)。でも赤って、俺も意外な感じしましたけどね

 

--あ、うちの社長側につきますね?(笑)。

 や、たぶん世の中の人に言わせると、赤って言う人はあんまりいないと思うんですけどね。いや、だから面白いのは、スピッツ知ってる人がスピッツを、まあ草野を譬えるとでもいいけど、何色って訊いた時に、アースカラーみたいな色で答える人とか、水色とか、草色とか(笑)、そう言う人が多いほうが面白いですけどね。赤とか言う人が少数の方が

 

--うんうんうんうん。

 その、密やかな感じっていうか(笑)。ムッツリでいたいっていう(笑)。ムッツリだからこそ俺だっていうところで。ま、それは楽しんでるところで

 

--シンプルなとこに立ち戻りますけど。この「ハネモノ」と「水色の街」っていうのは、マサムネくんの中の作家としての部分で、コントラストはついてるわけですか?

 いや、あんまりついてないと思います(笑)

 

--だから「ハネモノ」のほうが、まあささやかにアッパーな感じはするし、「水色の街」のほうが、よりマサムネ・センチメンタリズムっていうものには忠実な曲になってるとは思うんですけど、でも大枠で言っちゃうとさ(笑)、そういったものでは全然ないですよね。よっぽど前作のシングルの出し方のほうが、そのへんはあざとく考えていたと思うし。

 ああ、そうですねえ。「ホタル」と「メモリーズ」の対比ですよね。そういう対比はないですね。普通に、ミドルテンポの。まあパッて聴いたら、ああスピッツだなってわかるような曲だと思うし。そういうのでいいかなあって

 

--うん。だからこそ俺は、表現者としての欲深さのようなものをここで逆に感じてしまうんですけど。

 あんまりシングルに意味がなくなってきてるとはいえ、俺らはドーナツ盤で育ってる世代なので(笑)、幻想はあると、シングルに。うん、そんなところかな。あとラジオでかけてもらうっていうのおっきいですよね、シングルはね。だから「ホタル」とか「メモリーズ」みたいな、これ見よがし感はないんですよね。もうそういうのは当分はいいです(笑)

 

--上手くいくといいですねえ。でも申し訳ないんですけど、マサムネくんの場合はさあ、自分の中で「これ!」って言った曲よりも、なんとなくの曲のほうが過去に売れてる…。

 はははは、そういうのもありますね。うん、まあね、そういうもんでしょうね

 

--「ロビンソン」は駄作だったんだよね、最初ね。

 駄作っていうか、うーん、自信なかった

 

--ね。「チェリー」も大したことなかったんじゃなかったっけ。

 「チェリー」は、笹路さんですら、そういうことを言ってたような気が

 

--はははは。

 「空も飛べるはず」に至っては、やっつけですからね

 

--はっはっはっはっはっ!

 (笑)急いで作ったんだもん、だって。ドラマのプレゼンに出すからって言われて。結局そのドラマは使わなかったんだけど

 

--何度聞いても載せたくなる話だよね。でも結果的に正しかったですね。

 やっつけって意外にね、言葉悪いけど、そん時に一番表面に出てきてるものがボッて出てくるから。それが上手く表現できれば、いい結果に繋がることもあるんだよね

 

--なに開き直ってんだよ(笑)。

 ははははは。上手く結果に繋がらないこともあるけどね。でも今回やっつけないから心配だね、かえってね(笑)

 

--どうですか? 意識する音楽は今回あんまりなかったって話をされていたんですけど、自分らの音楽を今リスナーに、もしくはシーンに届けるっていうところに関しては、何か考えたことはなかったですか?

 うーん、あんまりない(笑)。シーンを知らないんです、最近。あんまり意識しなくなっちゃって。こないだ久々に、月2回になったJAPANを読んだんですけどね…「ああなんか、離れてたわ俺」って感じだった(笑)。興味持ってなかったなあ最近、ていう。まあそれがヤバいことなのかどうかはわかんないんだけど、そう思ったりはしましたけどね。実はね、ヒップホップなものは意外に聴いてたりするんですけど、バンドの流れはよく知らないんです、最近の。なので…うーん、誰だっけ? 名前も出てこなくなってる(笑)。…若手のバンドがいっぱい出てるから、あとでメモってちょっと聴いてみよっかなとか、ちょっと思ったりとか。でもまあ普通に、キック・ザ・カン・クルーとか、リップスライムとか、流れてくると、ああなんか…濃いいなっていうか。上手だなって言い方はよくないんだけど

 

--いや、上手ですよね。どうなんですか? 特にリップスライムとキック・ザ・カン・クルーなんですけど、この2つに関してはもう確実に、ヒップホップであることは当たり前だっていうところで、韻を踏むことに大層な価値を与えるってことを全然しないで。

 そうですよね。でも、なにげに踏んでたりするでしょう?

 

--そう、だから絶対に踏む、「俺は踏める」っていう、それが前提なんですよね。それが前提で、いよいよ彼らの意識っていうものは、ヒップホップとポップスを結びつける的なものではなくて、もう俺らヒップホップなんだから、あとはポップスへ向かっていけばいいんだっていう?

 そうですね、もうステージが変わってますよね。意識しますね

 

--そうそう、ものすごく才能があると思うんですけど、特にあの2ユニットに関しては。なんか、競争意識とまでは言わなくても、何か新鮮なものを感じたりしてんじゃないかなあと思うんですけど。

 いや、競争意識っていうよりも、単純に聴いてて楽しくなります。俺正直言ってね、韻を踏まなかった頃の日本ラップって、全然興味なかったんですけど。ほんとにジブラあたりから、ああなんかすげえおもろくなってきてると思って。それがさっきの二組とかになってくると、またなんか新たな世界になってんのかなあって。そういうのをほんとに、まあ傍観者な視点なんですけどね(笑)

 

--だからあの人たちも、表現というものにすごくシリアスに対峙していると思うし。シリアスに対峙してるから、遊びというものをああやっていろんなとこでパフォーマンスしていってるとこがあるんだろうし。そういった部分では、でもやっぱりライバルっていうものではない?

 ないですね

 

--ははは。俺むしろ、他のバンドよりも、ああいうもののほうが(笑)。

 ああ、ああ、刺激は受けますよ。やっぱりラジオとかで流れてると、最後まで聴いちゃおうと思ってずーっと聴いちゃうのはそういう音楽だったりするし。あとハンドのでも、結局…強い力でこっちに刺さってくるのって、ナンバーガールとか、モーサム・トーンベンダーみたいな、シャウトものなんですよね、結局そっちに

 

--それは衝動ものっていう感じ?

 うん。だからなおさらこう、自分たちがやってるのって、勝手になんか自分たちは──独りぼっちの領域に入り続けてて(笑)

 

--はははははは、なるほどね。

 いい意味でね(笑)。そういう気分でゃってる。脇見せずに

 

--だから漲ってるでしょう、結構今回。こういう優しい曲を作るってことに対して、逆に。

 優しいですかね(笑)。ああ、優しいかもしれない、うん。よりせっかちなリスナーに向けて作ってる感じですよね

 

--そうですね(笑)、まさにね。だからスピッツっていう音楽の効きの速さをものすごい感じますよね。やっぱりそれをマサムネくんが求めてたんだろうね。

 そうですね。インタヴューしてて思った。いや、頑張ったなと(笑)思った。ま、これからまた、俺らは俺らで、新たなステージっていう感じですよ。むしろもう、過去は過去って感じです

 

--じやあ自分のコアみたいなものに対して、何か、再評価しようとかっていうのは?

 コアな部分──再評価というよりもねえ、うーーん……うん、作家としては、作詞作曲家としては、まあ自信持ってやれてるけど、人間しては、あんま大した(笑)人間じゃないのかなっていう気は、年々してますけど

 

--ははははは! いやあ、ねえ…素晴らしい表現者はそうであって欲しいなあというか。人間として、どんどんどんどん欠落に意識的になればなるほど、音楽はさらに素晴らしくなってくると思うもので(笑)。

 うん。だってさあ、「水色の街」の”優しくなって プレゼント持って”っていう歌詞で、世の中の女の子たちに許しを乞うてる感じですよね、これね

 

--そうですね、甘えてますよね(笑)。

 そう。なんかズルいなあ俺、とか思いながらね(笑)

 

--(笑)そうですよね。そして「ハネモノ」も”子猫”ですよね。”ノドを鳴らす 子猫のような/望み通りの生き物に変わる”っていうこれも、究極の甘えですよ(笑)。

 はははは

 

--ズルイですね。

 一歩間違えば、ほんとに(笑)、ダメダメな姿が露呈してしまう。どうしても、こうなりますね。いい曲ほど(笑)

 

--でも、それが自分の長所なんだっていうことを開き直ってるところに、この、15年目に突入したというキャリアの巧みさというものを。

 ま、ギリギリの線でしょうね(笑)。ギリギリで。「やっぱりダメじゃん」ていう人がいてくれたほうが、まだいいかもしれない(笑)

 

--ははははは。そういうとこって改めて曲で、立体的であろうとした時に綴ってきた自分の言葉で、震撼させられるところがあるんですね。

 そうですね。イヤな奴っていうふうに──思ったり、自分を

 

--だからここまで続けてこれたんだし、曲っていうものを自分が作れてきたんだろうなって。ダメな自分によって。

 ああ、うんうんうん。ま、それは楽しく受け止めてるばかりじゃない時もあるんですけどね。まあでも、今んとこは大丈夫です(笑)。自己嫌悪になっちゃう時もあるんですけど

 

--マサムネくんてさ、自己嫌悪になった時に、それが音楽に結びついていくとこもあるんですか?

 いや、自己嫌悪から立ち直る時でしょうね。音楽に結びつくのは

 

--やっぱ自己嫌悪というギザギザしたものを音楽にしていくっていうのは、なんかはまりが悪い感じがどっかにある?例えばモーサム・トーンベンダーというのは、自己嫌悪というものを音楽にすることで、類い希なるエネルギーを出しているバンドだと思うんですけど。

 うん、すごいよね。まあでも俺のタイプはそうじゃないんでしょうね。やっぱりポジティヴなものと音楽っていうのが結びついてるんで。自分の回路の中では

 

--そういう回路の中でこうやって音楽を続けてきたことは、すごく幸福だと思われてますか?

 そうですね。すごい幸福っていうか、音楽があってよかったなあとつくづく思いますけどね。なかったら、適応できてるのかなとかね。社会に(笑)

 

--笑顔を自分は持てることができたんだろうか、みたいな?

 ああ(笑)、うん…たら・ればで考えるのはちょっと…得意ではないんだけど、まあそうねえ、笑えなかっただろうねえ…

 

--15年目でしょう? 年々、この社会において特別なことやってるなあという(笑)意識というのは出たり、肥大化しているわけですか?

 特別なこと? いや、特別だと思ってないですよ、うん

 

--それは良くも悪くも、ってことですけどね。

 ああ、悪くも特別。ああ、ああ、なるほどね。キリギリス的なね(笑)。でもね、や、もう信じるしかないっすよ、自分を。…なんていうかな、意味があるなしではなく…まあ好き嫌いでもいいんですけど。まあすごい観念的になっちゃうんですけど。もうスピッツは自分を信じるしかないんだなって今回強く思った。だからもう何処へも逃げない。何処へも逃げられなくなったから

 

--わかりました。非常にかっこいい言葉で締めていただいたもので、今日はこれでインタヴュー終わりたいと思います。また新しいアルバムの音を聴かせていただいて、そこでより具体的な、名作について──今ここではこう言っておきますので(笑)。

 ええ(笑)

 

--名作なんですよね?

 そうですね、はい(笑)。なんか、宮本さん(エレカシ)みたいになってきた(笑)

 

--というわけなので、来月もよろしく。お疲れ様でした。

 ありがとうございました。またお願いします

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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