「ちょっと、おニイさん、おニイさん。コッチ、コッチ、いい娘がいますよ。」
「すんませんね、用事があるんで。他の方を誘って下さいな。」
逢魔が時の繁華街でした。
営業の帰り、直帰の連絡をしようと公衆電話を探す目線に、その長身の男が飛び込んできました。
「おニイさん、お仕事はお済になったんでしょ、お疲れ様ですねぇ。」
「イヤ、いいから。」
彼は小走りに、先の自動販売機からカンビールを落とし、私に手渡しました。
「プシュ、はい、どうぞ。はぁ、うめぇ、春なのに夏の陽気でしたね。あっ、どうぞ、どうぞ。お金は取らないですよ。」
なぜか、なぜだか解らなかった。美味そうな顔に釣られたのか、手渡されたビールに口を付けている私がいました。
「最近はね、派手でしょ、ネコも杓子も。なんかね、賓ってもんがないんですよ。ウップ、すみません。」
まるで馴染みの様相で、彼は話し始めました。
「大事なもんはね、中身なんですよ。臭い化粧なんかしても、素がね品祖じゃ、お粗末ですよ。」
なんだ、愚痴に付き合わされているのか、見ず知らずの他人の愚痴に。
一気にビールを飲み干し、おもむろに500円玉を手渡しました。
この場から立ち去りたいがために。
「後は少龍飯店に洋の単3ケース、伝票切っといて下さい。以上です。では、お疲れです。」
ほろ酔いと気付かれないよう電話を済ませ、ほっと息を付いた私の背後に彼がいました。
「お金はいらないって言ったでしょ。」
押しの弱い営業マンは、見習わなければならない精神だ。
そんな好奇心からか、それとも緊張が解けたのか、彼の話を聞き始めていました。
「まぁ、いいじゃないですか、そんなこと。」
気付けば露天のホルモン焼き屋。丸椅子の上で愚痴を言う私を宥める彼がいました。
「うん、浪人町の牛島。そう、そう、蕎麦屋の三笠の並びね。」
彼は携帯で、この場所を伝えています。
「どうです、かわいいでしょ。ブレンダっていうんですよ。」
「はぁ。」
なんというか、可憐な女性だ。
彼女の容姿をマジマジと伺う、私がいました。
「お金はいりませんよ。」
「えっ。」
少し酔ったせいか、彼の言葉が理解できません。
「ね、生気がないでしょ。この娘はね、おニイさんが見初めるんですよ。おニイさんがね。」
全く解りません。
「落ち着きなさいな、後になれば解せますよ。」
彼の意のままでした。
そして、彼は暗がりの路地に姿を消しました。
「下手すると賓のない品祖になるんで、気を付けて下さいね。大丈夫、おニイさんなら大丈夫ですよ。」
この言葉と彼女を残し、彼はいなくなりました。
ブレンダとは、こんな出会いです。
その後訪れる、明るくも切ない日々は、ここから始まりました。 |