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<朝日新聞>

ドクターヘリ高い救命効果

 ヘリコプターを利用した救急医療に執念を燃やす小濱啓次・川崎医療福祉大学教授(救急医学)にとって、阪神・淡路大震災は苦い思い出だ。

「当日ヘリで運ばれたのは1人、2日目が6人。一番大事な時に、ほとんど役に立たなかった」

 被害地域は限られており、けが人を無傷な大阪の病院へひと飛びで移すことができたのに。世界の関係学会では日本の無策ぶりが笑われた。

 小濱さんは日本航空医療学会理事長でもある。「救急は救急車」が原則の日本に対し、欧米では救急ヘリでの搬送や、医師が同乗して現場に駆けつけるドクターヘリが主役だ。現場で治療を始める方が、病院に着いてから治療するより救命率が高いのは当然だ。

 ヘリコプター会社出身の西川渉・同学会監事によると、ドイツとスイスが進んでいる。「ドイツは州法で医療者は15〜17分以内に治療を始めるよう定めている」。約70ヵ所に拠点を置くドクターヘリが、日本とほぽ同面積の国土をくまなくカバーする。スイスは九州と同じくらいの面積で13機だ。

 時速200キロで一直線に飛ぶヘリコプターに比べると、救急車は遅い。総務省消防庁の2004年全国統計では、119番の電話から20分未満で病院に収容された人は21%しかいなかった。

「救急ヘリの遅れは国の認識不足のせい」と小濱さんは言う。前任の川崎医大(岡山県倉敷市)に全国初の救急医学講座を開いたが、救急車の中で亡くなる患者の多さに驚いた。県北部からの搬送に1時間以上かかったからだ。

 1980年、ドイツでの世界航空医療学会に参加し、救急ヘリに回覚めた。チャーターしたヘリを81年に1日、83年に3ヵ月、86年に半年間、ドクターヘリとして飛ばし、ノウハウを徐々に蓄積した。

「運航から着陸まで、関係官庁や県、市町村、教委、消防などに何度も何度も頼み込んだ。当時は理解してくれる人もほとんどいなかった」と振り返る。

 95年の大震災時、主に沖縄の救急を受け持つ自衛隊、海上保安庁のヘリ以外に、都道府県や大都市の「防災・消防ヘリ」が約40機あった。しかし、主目的は消火、災害救助、偵察など。それもそのはず、98年に改正されるまで消防法の規則で「患者の搬送は救急車」に限られていた。

 その反省から2001年、厚生労働省のドクターヘリ事業が正式に始まった。救命救急センターに配備されたヘリは、要請から2〜3分で医師、看護師を乗せて飛び上がる。ヘリコプター会社に委託した運航費用は国と都道府県が折半する。小濱さんの川崎医大を第1号として、今は10道県11ヵ所。年600件を超す日本医大千葉北総病院(千葉県印旛村)をはじめ、年間の出勤は平均約400件に違する。

 一方の防災・消防ヘリは、佐賀、沖縄を除く45都道府県、計70機に増えた。消防庁も救急を重視するようになり、出動の半分を救急が占めるようになったが、それでも1機平均35件ほど。救急救命士が乗り、病院間の患者転送が多い。多目的なので、装備替えに約20分はかかる。

 ドクターヘリの費用はどのくらいか。自力運航が多い防災・消防ヘリに比べ格段に安く、年間で1機2億円程度だ。年400回飛べば1回あたり50万円。I回8万〜10万円といわれる救急車よりは高いが、重症者中心だけに救命効果は大きい。

 国や都道府県にドクターヘリの拡充を求める法案が25日開会の通常国会に提出される。ドクターヘリ病院を支援する法人を設立、消防との連携などを定め、4月施行の見込みだ。

「心配なのは乗ってくれる医師、看護師の確保だね」と国松孝次・元警察庁長官。スイス大使時代にドクターヘリを知り、今はNPO法人救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)の理事長として、旗振り役を務めている。(編集委員・田辺功、『朝日新聞』2007年1月22日付「ニッポンERの今」より要約)

(JSAS、2007.1.24)

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