<日本経済新聞>
ドクターヘリ普及へ法制化の動き 医師や看護師を乗せて救急患者を治療、搬送する「ドクターヘリ」の普及が遅れている。経費がかさむため自治体が導入に及び腰で、今の稼働状況は9道県で10機にすぎない。ドクターヘリは搬送時間の短縮による救命率の向上やへき地の医師不足対策の切り札。全国的な普及に向け、与党はプロジェクトチームを設置、法制化の検討を始めた。
ドクターヘリは除細動装置や心電図モニターなど救急治療機器を装備。医師と看護師、操縦士と整備士の4人が搭乗する。消防などの要請で出動し、けが人や急病人のいる現場や機内で初期治療を施し、救命救急センターまで搬送する。
心肺停止の場合、1分ごとに救命率が10%下がるため、治療を始める時間や病院に搬送する時間が短縮されれば、救命率の向上や後遺症の軽減に役立つとされる。
医療保険や自賠責の適用へ ドクターヘリは欧米を中心に1970年代から配備が進んだ。アウトバーンの交通事故対策として導入したドイツでは、半径50kmごとに総数およそ80拠点があるほど定着している。
日本は厚生労働省が1999年度から岡山と神奈川でモデル事業を実施。2000年に政府の調査検討委員会が導入を強く求める報告書をまとめ、01年度からドクターヘリ事業が始まった。
しかし、この5年間に導入されたのは、岡山、静岡(2機)などの10機で、今年度中に長崎で導入予定だが、2006年度までに全国30ヵ所という厚生労働省の整備計画は大幅に遅れている。
最大のネックは運営費の負担。ドクターヘリの運営はヘリコプターが常駐する病院が行なう。ヘリコプターのチャーター料や燃料費などは国と都道府県が年間8,500万円ずつ、合わせて1億7,000万円を補助しているが、財政難のため導入に二の足を踏む都道府県が多いという。
自民、公明両党は七月末に「与党ドクターヘリ・ワーキング・チーム」を設置、運営費負担の軽減策を検討している。その中で「普及には法制化が必要」として搬送費の一部を医療保険や自動車賠償責任保険などの適用対象にすることを盛り込んだ法案の国会提出をめざしている。
へき地で威力を発揮 2004年からドクターヘリを導入した順天堂大学付属静岡病院によると、2005年度の1年間の出動は497件。伊豆地方は山間部が多く、県東部の同病院まで救急車で搬送するには2時間以上かかる地域もある。ドクターヘリなら要請から現場までの平均時間は14.3分、往復の平均は23.5分と短縮される。
搬送された患者を疾患別にみると、急性心筋こうそく13.9%、心不全5.8%、脳内出血5.0%、くも膜下出血3.2%など一刻を争う急病人が多い。
同病院は7月、9階建ての新病棟の屋上にヘリポートを新設した。従来は病院から1.5キロ離れた場所にあったが、屋上からすぐに出動できるようになり、往復で計6分の時間短縮が可能になったという。
前田稔院長は「山間部が多い地域の特殊性から、ドクターヘリの役割は極めて大きく、患者の救命率や予後も左右する」と指摘している。
(日本経済新聞、2006年8月16日付けより要約)
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