<ドクターヘリ>
2006年度出動実積と今後の課題 ![]()
ドクターヘリ事業は2006年度、長崎県が事業を開始して11ヵ所となった。出動件数も前年度4,098件から4,444件へ8.4%増となった。ただし長崎県は2006年12月からの運航開始なので、その4ヵ月間を除くと、1年間をフルに飛んだ10ヵ所の伸びは前年比5.8%である。
また出動要請件数は下表のとおり5,442件である。実際に出動したのは4,444件だから、残り998件が夜間の時間外要請(159件)、天候不良(347件)、出動中の重複要請(300件)、その他整備点検中など(192件)で飛べなかったことになる。
一方、実際の出動件数内訳は下表のとおり、現場出動が3,045件で68.5%、病院間搬送が23.1%であった。また長崎を除く出動件数は、10ヵ所で4,338件。1ヵ所平均433件ということになる。
[資料]日本医科大学千葉北総病院救命救急センター長・益子邦洋教授上の表でもうひとつ注目すべきは飛行途中の中止が場所によって大きく異なることである。全体では372件で平均8.4%だが、静岡県西部の中止件数は28.6%。逆に岡山はキャンセルがゼロである。
何故このような差が出るのか。恐らくは救急隊員が現場に到着し、患者の容態を診てからドクターヘリの出動を要請する。そういうところは途中キャンセルが少ない。逆に、消防本部が119番の救急電話を受けた時点で、直ちにヘリコプター出動の必要性を判断し、要請を出す。そういうところは途中キャンセルが多くならざるを得ない。
前者の場合は、無駄な飛行が少なくなる。けれども、先ずは救急隊員が地上を走って現場に到着しなければならない。その後でドクターヘリ要請となるので、それだけ時間がかかる。真に必要な場合は、ヘリコプターに乗った医師が患者のところへ到着したときには手遅れになっているかもしれない。それでなくても、ドクターヘリは一刻も早い治療着手を目的とするものである。したがって出動要請が出た後は2分前後で離陸するなど迅速な対応に努力しているが、その要請を出すまでに時間がかかったのでは何にもならない。
そこで静岡県では、救急隊員が現場で患者の容態を診てからではなく、事案発生から1〜2分以内に一定の条件を満たしていれば自動的にヘリコプターの出動を要請することにしている。その要請から1〜2分以内にはヘリコプターが飛び立つ体制になっていて、したがって途中キャンセルも増加する。しかし、それでもいいのだということがドクターヘリ運航要領の中にも明記してあり、途中の中止も容認することが定められている。つまり、患者のためには、20〜40%のキャンセルはむしろ好ましいし、消防本部の意識改革を進めてきた結果であるというのが聖隷三方原病院岡田眞人救命救急センター長を初め、消防機関も含めた関係者の考え方である。
世界的にも、救急ヘリコプターを飛ばすかどうかは、救急隊員が現場に着いてからではなく、救急本部が電話を受けたときに判断するのが普通である。そのため救急電話を受ける要員の訓練も徹底しており、たとえばロンドンでは実際に救急現場へ飛ぶパラメディックが交替で救急本部(LAS:London Ambulance Service)の出動指令センターに勤務し、市民からの電話を聞いている。
日本の消防本部に途中キャンセルはよくないという考え方があるとすれば、ドクターヘリの現場到着を早めるにはどうすればいいか。もう少し討議する必要があるかもしれない。(西川 渉)
[資料]日本医科大学千葉北総病院救命救急センター長・益子邦洋教授
[注]ドクターヘリ出動統計に関する定義
- 「要請件数」とは、ドクターヘリの出動要請の総数を示し、消防機関等からの現場出動、医療機関からの施設間搬送がこれに含まれる。
- 「現場出動」とは、救急現場およびその近隣の臨時へリポートへの出動をいう。
- 「施設間搬送出動」とは、医療機関から医療機関への患者の搬送をいう。
- 「出動件数」とは、上記1項に対してドクターヘリが離陸した件数をいう。
- 「診療人数」とは、上記4項の出動によって診療を受けた患者数をいう。
- 「途中中止」(キャンセル)とは、上記4項の出動をしながら、患者の診療を行わずに拠点病院へ帰投した件数をいう。
- 「その他」とは、上記2、3、6項以外の出動――たとえば緊急医薬品搬送、臓器搬送など
ドクターヘリの出動実積(2006.7.25)
ドクターヘリ2005年度出動実積(2006.5.14)
(JSAS、2007.5.3)
