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<世界日報>

救える命が救えない

父と娘の時事問答

 最近、重症患者を乗せた救急車が、救急病院に相次いで断られるニュースが多いけど、何とかならないの?

 助かる命が助からない現実は悲しいね。医療先進国の日本だけれど、そうでない面もある。その一つが、救急車のみに頼っていることだ。

 でも、救急車の人たちはよくやっているわ。

 確かに頑張っているよ。でも遠い所や山間部、それに緊急手術が必要な時はどうしても病院到着までに時間がかかる。そこで登場してきたのが「ドクターヘリ」だ。先日、秋田市で「ドクターヘリフォーラム」(秋田大学医学部附属病院と秋田県の共催)が開かれて、医師や消防署の人たちが集まって論議した。実は今年6月、ドクターヘリの全国配備を目指す法律が国会で可決成立したんだ。

 ドクターヘリって、普通のヘリコプターじゃないの?

 救急専用の装備を備えたヘリコプターのこと。救命救急センターに常駐し、要請があれば医師と看護師を乗せて患者の所に向かい、その場で処置をする。すごいのが、ヘリコプターの中で手当て中の医師が病院に、たとえば「緊急気管切開をするから機器と医師チームの用意をして」などの指示できること。命が救えるだけでなく、後遺症も減る。

 後遺症が少ないことも大事よね。

 阪神淡路大震災の被災当日(平成7年1月17日)に問題が浮上した。道路が寸断され、地元の病院は使えない。上空にはマスコミのヘリコプターが飛び回っているけれど、患者を運ぶヘリは1機も飛ばなかった。1人だけ救助されたのは、たまたま医薬品を運んできたヘリに患者を乗せたからだった。ドクターヘリは普段から必要だけれど、災害時や高速道路での事故にも威力を発揮するんだ。

 それはすごいことね。今、日本にドクターヘリはないの?

 全国に11機が配備され、来年3月までに3機増える予定だ。最大の問題は、救える命に「格差」があること。都市と地方もそうだし、都道府県の間でも違う。東京都内のようにどこでも15分以内に救急車が行ける所と、病院まで80分かかる自治体もある。

 大都市と地方の経済格差って聞いたことがあるけど「救える命の格差」って、重大問題じゃない?

 でも格差は、日本と欧米との間にもある。救急拠点数で見ると、アメリカ647ヵ所、フランス32ヵ所、イギリス26ヵ所、イタリア48ヵ所。スイスは日本の1割強という狭い国土にもかかわらず15ヵ所あるし、日本と国土面積がほぼ同じドイツは80ヵ所だ。

 ドイツはどうしてそんなに多いの?

 ドイツに高速道路のアウトバーンがあるのは知っているだろう。1970年には死者が約21,000人もあって、救急ヘリを導入した。すると15年で死者が半減し、30年後の2000年には約7,500人と3分の1に減ったんだ。また1998年のドイツ高速列車事故は死亡101人、負傷200人の大惨事となったが、このとき現場には39機のヘリコプターが飛来し、22の病院に搬送。事故発生2時間後には搬送が終了した。

 列車って大事故になることが多いものね。ヘリコプター救急については今年6月に法律ができたんでしょう。すぐにでも全国にドクターヘリを導入したらいいのに。

 問題は維持費。1機につき年間約2億円がかかる。現状では国と自治体が半額ずつ出す例が多い。毎年1億円の出費と聞いてドクターヘリの導入を躊躇(ちゅうちょ)する自治体も多いという。

 地方は人口減少や高齢化で大変だけど、何とかできないの?

 スイスでは民間の寄付と医療保険で賄っている。欧米では医療保険と寄付金、政府の組み合わせがほとんど。翻って日本では、6月にできた「ドクターヘリ特別措置法」には民間の寄付も可能となっているが、運用資金については詳しく書いてない。興味深いのは、同程度の重症患者が救急車とドクターヘリで搬送されたとして、医療費が110万円違ってくるという試算だ。年間200人なら2億円の差が出る。

 医療費削減にもかなうんじゃない?

 現在ドクターヘリを運用している千葉県の状況を、日本医科大学の益子邦洋教授が秋田県のフォーラムで「千葉県では死亡を27%削減し重度後遺症を45%削減できた」と説明。「50機の年間運航費が100億円として1億人が負担すれば1人年間100円。国民総医療費約30兆円の0.03%にすぎない」と強調していた。

 2県で共同保有したり消防防災ヘリや海上保安庁、自衛隊のヘリコプターを使うのはどうなの?

 いいことに気づいたね。特定NPO法人の緊急ヘリ病院ネットワーク(HEM−Net)理事長の国松孝次氏は、同じフォーラムで「とにかく医師や消防署、それに住民が議論し合って、実情に合った運用のあり方を論議してほしい」と呼びかけていた。(伊藤志郎、「世界日報」2007年10月28日付けより要約)

(JSAS,2007.11.1)

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