<毎日新聞>
久留米大学ドクターヘリ 全国の警察や消防などには事故や災害に対応するためのヘリコプターが配備されている。しかし救急患者の発生時に医者を乗せて飛び立ち、現場到着と同時に医療活動を始める「ドクターヘリ」の配備は全国で14ヵ所しかない。そのうちの一つ、久留米大学の高度救命救急センターは昨年6月、西日本で初めて高速道路本線上に着陸し、救命活動にあたった。全国的な配備には多額の維持費や人員確保など課題は少なくないが、人命救助のため同大のヘリコプターは今日も離陸準備を怠らない。
2007年6月28日午前11時25分、佐賀県基山町の九州自動車道上り線で、追い越し車線から進路変更してきた車を避けようとした男性の乗用車が、左側にいたトラックに衝突。乗用車は横転し、助手席の妻が車内に閉じ込められる事故が発生した。通報を受けた消防は約10分後、現場に到着し、救急救命が必要と判断。11時39分、久留米大にドクターヘリの出動を要請した。
要請を受けた同大のヘリ運航センターは「ドクターヘリ出動」と院内放送を入れ、同時に約300メートル離れた待機所へ「エンジンスタート」と伝えた。ローテーションで待機している医師のうち2人と看護師1人が直ちに医療機器を手に救急車で待機所へ。11時44分ヘリコプターは離陸、同54分に現場の高速道路に着陸した。出動要請からわずか15分。ヘリコプターはけがの程度が重かった妻を久留米大学病院に搬送し、幸い2人とも命に別条はなかった。
ドクターヘリは1970年代から欧米を中心に導入され、ドイツでは交通事故の死亡者が激減したとされる。しかし、年間平均1.7億円の維持費がかかることなどから、日本ではいまだ配備が進んでいない。加えて高速道路への着陸は「対向車線の車に2次被害を生じさせる可能性がある」などとして、旧日本道路公団が許可しない時期が長く続いた。
久留米大学では2002年2月、厚生労働省の新規補助事業が始まったのを受けてドクターヘリを導入。出動回数は02年度100回、03年度200回を超え、04年度以降は毎年300回以上を数える。このうちヘリコプターを使うことで命を取り留めた人は04年度15人、05年度37人、06年度20人にのぼり、後遺症が残らなかった人は04年度56人、05年度33人、06年度19人だったと分析する。
2006年9月には高速道路での運用マニュアルを作成、「飛散物から100メートル先に着陸」などと細かく取り決めた。こうしたマニュアルに基づく高速道路への着陸は久留米大学のドクターヘリが全国初だった。一方で夜間飛行ができないことや、3車線以外の高速道路に着陸できないなど課題も残る。
昨年6月には「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法」が新たに施行された。ドクターヘリの全国的な配備を促す法律だが、基本的には維持費を国と都道府県が折半する現行制度と変わらない。
久留米大病院の高度救命救急センター長、坂本照夫教授(57)は「配備が進まない背景には自治体の資金力と同時に人材のこともある。小児科や産科だけでなく、救急も医師は足りない。そこが問題」と言う。ドクターヘリの存在が「当たり前」になるには、まだしばらくかかりそうだ。(松下英志、毎日新聞2008年4月4日付より要約)
【参 考】
久留米大学は1928年、ブリヂストンの創業者、石橋正二郎と兄徳次郎(いずれも故人)が土地や建物を寄付し、九州医学専門学校として創立。1946年に久留米医科大学となり、50年に商学部を開設して現校名となった。現在、文、法、経済、商、医の5学部11学科と大学院、法科大学院を持つ私立の総合大学で、今年創立80周年を迎えた。文、法、経済、商、医の5学部11学科と5つの大学院研究科を擁する総合大学に成長し、47,404人の卒業生を輩出した。現在の学生数は約7,600人。九州唯一のドクターヘリを備えた高度救命救急センターを持つ大学病院もある。
4月12日の創立80周年記念式典で薬師寺道明学長は「人の力の結集で幾多の困難を乗り越えてきた。これからも地域とともに歩む」とあいさつした。(追記)
(JSAS,2008.4.7)
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